神野山は玉手箱

 平成14年10月27日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独
神野山の南斜面の茶畑。木立の向こうに一等三角点が


 これほど良い天気になるとは思っていなかった。お蔭で油断をして行先も決めずに寝て
しまった。広がる青空。このまま家にくすぶっているのももったいない。が、気は焦れど
ままならず。うーん。

 そうだ!先週、万一、三尾山オフが中止になった場合に備えて、雨が降っていても行け
そうな所はと調べた時に候補に上がった山がある。神野山。そこにするか!

 もう10時を廻っているが、そうと決まれば準備にも力が入る。幸い、阪神高速も西名阪
も空いていて、最寄の神野口ICには1時間で到着である。ICを出るともう其処は茶畑
が広がる世界。丸く刈り込んだ茶の木が並んだ畝が斜面に整然と列を作り、その奧の高台
に農家があるという長閑な風景が展開する。

 神野山へは県道272号の随所に道標があって迷うことはない。3qほど狭い道を走る
と、右に和風の建物が見えてくる。森林科学館と茶の館『映山紅』である。駐車場が無料
なのが有り難い。(実はこの近辺に無料駐車場は結構あります。)

 駐車場の入口には大きな案内板がある。大まかなコースをこれで把握する。まずは車道
を鍋倉渓へ向かう。

 西高東低の冬型の気圧配置だとか。時折吹く強い風に落ち葉がひっきりなしに舞い落ち
てくる。少し寒い。藤井寺市の野外活動センターを過ぎてすぐ、左手に塩瀬地蔵が立って
いる。鎌倉時代の作だそうで旧伊勢街道の道端にあって、1.5m程の岩に線刻され、や
や摩滅した姿は、昔、火災にあったからだそうな。そばの湧き水は目の病に効能があると
かで、今でも信仰厚いそうだ。

 塩瀬地蔵を後にすると今度は右手に案内板が現れた。『大師の硯石』。この下40mと
ある。寄ってみる。

 葉の落ち始めた雑木の中の踏み跡を進むと、2m程の大石が下部を土に埋もれさせて鎮
座している。成る程それで硯石と名がついたのか。表面がえぐれて丁度、硯の様に見え、
おまけに溜まり水がある。傍に説明板があった。なんでも弘法大師が神野山に登ろうとし
た時に、村人に何か望みはないかと尋ねたところ、村人は塩が欲しいと答えた。そこで大
師が錫で石を突くとたちどころに塩水が涌き出たという。それからその村を『大塩』と呼
ぶようになったとか。溜まり水は不思議に溢れも枯れもしないのだという。お決まりの大
師順錫談だが、なかなか面白い話だ。

 もっと距離があるのではと思われた鍋倉渓へはまもなく到着。橋が架かっていて、その
下は幅10mの枯れ沢。その沢一杯に黒い大石が累々と重なっている姿は奇観。昔、伊賀
の天狗と神野山の天狗が争って投げた石が集まった所だという伝説がある。因みにこの石
は角閃斑れい岩という固い石だそうだ。その枯れ沢の右岸に木製の階段が整備されていて
それを辿る。対岸に古い建物が見えたので行ってみた。神社の様な寺の様な。大きな岩に
注連縄が巻かれていると思ったら、小便小僧の白い像が祀られていたり。摩訶不思議なエ
リアだ。
累々と角閃斑れい岩の黒い岩が転がる鍋倉渓

 元に戻って木の階段を更に昇る。日差しがあって明るいからいいようなものの、強風に
杉木立がゴウゴウと音を立てておどろおどろしい。やがて道は大きなイヌツゲが株立つ地
道となる。この辺りは多くの道が縦横に錯綜している。トンボが石に止まって日向ぼっこ
の最中。こちらの足音に驚いて飛び立ったと思ったら、ほんの1m先に止まる。その繰り
返し。

 再び大きな岩が現れた。これが『天狗岩』だろうか。標識は見つからない。

 大した登りもない内に所々にツツジの株が増えてきたと思えば、前方にアンテナ施設。
トイレ施設を左に見て進むと、3階建てのコンクリート製の展望台が見えてくる。その手
前に立派な18p角の一等三角点標石があった。

神野山山頂の一等三角点

 まず展望台にあがる。流石、一等三角点の山。王塚の杜がこんもりと西南方面だけを隠
しているが、ほぼ360度の眺望だ。東には白い風力発電機のプロペラが目立つ青山高原。
そして名張の新興住宅地。北東方向に見えるのは鈴鹿山脈。一際、ガレた三角形の姿は御
在所岳らしい。北には信楽、笠置の山々。その奥は愛宕山らしい独立峰も目に入る。南は
榛原方面の額井岳、貝が平山が目立つ。それにしても強風で寒く、また後で眺望を楽しむ
として、冷えた体を温めるべく、日溜りで昼食とした。

 食後、再び展望台へ。今度はウインドブレーカを着込んで行ったのだがそれでも寒い。
鼻水が出るわ、耳が痛いわ。体感温度はかなり低かったのではないだろうか?それでも3
0分程も我慢して双眼鏡で楽しんだ。

 山の規模の割に広い山頂。一寸ぶらついてみる。

 神野山(こうのやま)は即ち『神の山』である。なだらかな姿は明らかに神奈備山で、
山麓には『伏拝』、『助命』などの不思議な名前の集落がある。山頂にある王塚も古墳の
跡であろう。しかし、現在の王塚は荒れた小さな社で左右の狛犬の顔もない。『山邊郡二
階堂村』と彫られた石柱が傍らに寂しく佇み、王塚の隣には稲荷社。山頂にあった説明板
に依れば、王塚と山腹にある八畳岩、天狗岩は夏の夜空を彩るべガ、アルタイル、デネブ
を結ぶ大三角形を地上に映したものであるという。そして鍋倉渓が天の川。何ともロマン
溢れる話ではないか。

 ツリガネニンジンを写真に納めている夫婦。それを横目に歩いていると、変わった花が
咲いていますよと傍らから叔父さんが現れた。指差す方向に視線を向けると、赤紫のアザ
ミに似た花が一本、ポツンと草叢に頭をもたげているではないか。(帰宅後調べるとタム
ラソウでありました。)なかなか美しい色をしている。とりあえずカメラに納めておく。

 神野寺へ向かう。雑木林を南側に抜けるとそこは茶畑。視界が広がって、ゴルフ場の広
がる大和高原の向こうには特徴ある額井岳や貝が平山。更に倶留尊山から大洞山、古光山
の山塊が目に付く。
神野山南斜面の茶畑から倶留尊山方面を望む

 すぐにT字路に出て、右に下っていけば神野寺である。真言宗の寺。行基が開基した古
刹だが、度重なる火事で今は衰微している。本尊薬師如来は奈良博物館へ貸出との事であ
る。

 T字路にとって返して東方向に向かう。相変わらず風が強い。その風に細い杉の幹が揺
れて、キーキーと擦れ合う音が少し不気味だ。時折、枯葉が落ちてくる。路上はその枯葉
で一杯である。やがて左手に見えてくるのが弁天池。スイレンが繁茂する小さい池である。
その先は五差路。道標に従い、森林科学館を目指すことにする。

 ここからは舗装路でなく普通の山道。赤松やソヨゴ、イヌツゲ等の雑木林。それを抜け
ると一旦、車道に出合う。左へ折れる。すぐに炭焼き施設。そして木工館と続く。ここか
ら再び道標に従って、『ふれあい広場』へ向かう。右に芝生広場があったが、それが『ふ
れあい広場』だったらしい。かまわず道なりにどんどん下る。この道には楓が多い。紅葉
時は綺麗に違いない。クモの巣を払いながら進むと再び車道。ここまで来ると、前方にグ
ラウンドと森林科学館の建物が見える。そのままグラウンドを突っ切って森林科学館へ出
た。

 時間もあることとて、ついでに大ヤケ山も探り当てに行くことにする。森林科学館の前
を抜けて県道を南へ向かう。その県道がドッグレッグしている箇所がある。そのドッグレ
ッグの関節の部分から左へコンクリート舗装の林道がある。その側にアンテナ施設が建つ。
GPSによれば、大ヤケ山(点名『箕輪』)の四等三角点はこの近くにあるはず。案の定、
アンテナ施設の敷地の南のササ群の中に保護石に囲まれた真新しい三角点があった。それ
を確認して駐車場へ戻る。

 『映山紅』にはレストランがある。大和の茶粥もメニューにある。北の茶室は見学可能、
信楽、笠置の山が綺麗だ。続いて隣の名産品直売所に廻る。最後に森林科学館を見学して、
今日の山歩を締めくくる。

 神野山は玉手箱だぁ。そんな奈良の山の奥深さをひとしきり感じた今度の山歩きでした。



【タイムチャート】
10:15自宅発
11:33〜11:40森林科学館駐車場
11:44〜11:46塩瀬地蔵
11:50〜11:52大師の硯石
11:55鍋倉渓北入口
12:14天狗岩
12:24〜13:15神野山(618.8m 一等三角点)
13:26〜13:33神野寺
13:42五差路
13:48木工館
13:51車道出合い
13:57〜13:30大ヤケ山(点名『箕輪』496.0m 四等三角点)
14:03森林科学館駐車場


神野山のデータ
【所在地】奈良県山辺郡山添村
【標高】618.8m(一等三角点)
【備考】 大和高原の東に位置するなだらかな山で、月ヶ瀬神野山
県立自然公園に指定されています。一帯が花崗岩ででき
ている中にあって、この山は角閃斑れい岩でできており、
風雨による浸食に残丘として残ったものだといわれます。
北麓の鍋倉渓は、この角閃斑れい岩が累々と重なり奇観
です。また山頂は一等三角点が置かれているだけあって
大展望が得られ、ツツジの名所でもあります。



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