ホトトギス群れ咲く局ヶ岳

 平成14年 9月15日(日)
【天候】曇り時々晴れ
【同行】単独
飯高町作滝付近から眺める『伊勢の槍ヶ岳』局ヶ岳


 局ヶ岳は以前、二本ボソから眺めたピラミダルな姿が印象的で、いつかは登ってみたい
山の一つであった。標高差700m。体調を崩して以来、手抜き山歩きが多かった小生に
とっては、伊勢の槍ヶ岳とも呼ばれるその姿から想像される様に、なかなか厳しい登りを
強いられる山であったが、伊勢湾も遠望出来る等、それを補って余りある展望の山でした。
今回はその印象記。

 さあ出発しようかという気分に水を差す、どんよりとした曇り空。テレビの予報も芳し
くない。しかし、ピンポイント予報を調べると、今日の目的地、三重県飯高町宮前付近は
曇り。昼前には日も射すとかで、予想雨量もゼロ。播磨の段ヶ峰方面に遠征している松田
さんからも曇り空との情報。西がそれなら何とかなるんじゃないの?後は現地で考えれば
いいだろうと、とりあえず7時丁度に出発。

 R166を東に進むに従って、むしろ天候は良くなる気配。高見山も頂上が眺められる
ではないか。高見トンネルを抜け、三重県側に入ると青空もほの見えてきて、気分も明る
くなる。

 田引トンネルを抜けると左前方に目指す局ヶ岳が姿を見せ始める。おお、なかなか鋭い
姿だ。取付きへの道は飯高町役場や道の駅「飯高駅」を過ぎてしばらくの辺りだったなと
左側を注意して走っていると、バックミラーに映った壁に「局ヶ岳登山口」の大きな案内
があるのに気付く。「ちょっとーっ、飯高町さん。大阪方向からも登山客来るんですよ。
そっちからもよく分かるように頼んます。」これは三峰山登山口と大書された案内板にも
いえる事である。

 さて、Uターンして、その指示通り北へ。狭い道を登っていくと惟喬親王に縁の木地師
の里だったらしい木地小屋の集落にでる。茶畑の向こうに鋭い局ヶ岳の大きな姿。民家が
途切れると、道は一段と狭いコンクリートの林道で、かなりの急傾斜である。暫くすると
小さな鳥居が見えてきた。その前に細かい砂利を敷き詰めた空き地があったのでそこに駐
車する。

 予想に反して先行車もない。「人気の山なのになぁ」少し拍子抜け。だが、準備してい
ると車の音がして、地元の勢和町から来られたというご夫婦がやってきた。このご夫婦と
は暫くご一緒する事となる。

 こぢんまりとした局ヶ岳神社を左に見て林道を上がって行くと直ぐに道標のある分岐と
なる。右の深谷川には大きな砂防ダムと、それを横切って国道張りの林道の鉄橋が懸かっ
ている。何もここまで...と思う。更にこの林道は県営の『三峰・局ヶ岳線』という。三
峰山から局ヶ岳、果ては飯南町までつなげるのだろうか。果たしてどれだけのニーズがあ
っての完全舗装の上下2車線なのだろうか。

 左に曲がって新道の登山口に向かう。凡そ15分で案内図の建つ登山口。『椿の滝』コ
ースとある。案内図を見ると、600m先にも登山口があるらしい。ここはまた新たに開
設されたものであろうか、一本調子に登って行く一間幅の広い道である。まもなく右に左
にとジグザグに山腹を上がっていくようになり、南側の景観がどんどん広がっていく。

椿の道コースの登山口。車上狙いに
注意の警察の看板も

 植林帯に入ると、どこからともなく新しい道が現れる。その為、道が分かり難い部分が
ある。テープなども少ない。時たま、登山道と書かれたビニールが巻かれてある位。基本
的には登路の場合、取りあえず上方向の道を選べば良いのだが、これが下山路の場合は、
選択に迷うことがあるかも知れない。

 この辺りまで来ると、西方向に栗の木岳から三峰山に連なる稜線が垣間見えるようにな
る。ここから見る栗の木岳は、文字通りピラミッド型を形成している。一度行きたい山に
追加だ。

 何度か新しい道に分断されたり、その新しい道を歩いたりしながら山腹を絡んでいく。
そうする内に新道が水平に山腹を巻くのから分かれて、尾根に取り付く道が延びている辺
りに出る。ここから道は細くなり、昔ながらの踏み跡といういい雰囲気になる。道端には
ヤマジノホトトギスが点々と花を開いている。その中に釣り鐘形の変わった花があるなと
思えば、ホトトギスの蕾であった。マツカゼソウもあちこちで群れてさいている。そして
木々の茂りでほの暗い部分に、鮮やかな茄子紺の奇妙な花。トリカブト。猛毒植物とは思
えない綺麗な花である。
登山道に点々と咲いていたホトトギスとその蕾
茄子紺色が美しいトリカブトの花

 長い山腹歩きもようやく終わり。支尾根の基部に乗る。手製の道標が立っていて山頂方
向を指している。右に曲がって尾根沿いの道を行く。ここからは傾斜も緩んで歩き易くな
る。まもなく何となく小さな鞍部と思える場所に出た。旧小峠と道標にある。

 そこから暫く登っていけば、余り「峠」という感じがしない小峠。右の谷から旧道が合
流してきていて、「中電電波反射板維持道」の表示がある。

 と、単独小父さんが降りてきた。地元の方で月1回は登っているそうな。大阪から来た
というと、「この前は大阪からバスで沢山の人が見えられたが、今日は誰もおらん」
神社の前にも車はなかったし(少し先にこの小父さんの軽が1台あった)、人気の山なの
に珍しいこともあるもんだ。

 ところで今日のハイライトはここから山頂までの道であろう。岩まじりの急傾斜の道だ。
高度も上がってきて、今まで見なかったヒメシャラが現れる。再び山腹を登って、尾根に
出ると、向こう側はこちらに勝る急斜面。木々が茂っているから紛れているが、何もなけ
れば怖い位だろう。ここで左に向きを変えて岩混じりの細い尾根上を登ることになる。

 立ち止まる回数が増える。眼鏡を取って滴る汗を拭く回数も増える。もう少しもう少し
と言い聞かせながら一つ一つ歩を進めている内に、突然、頭上に空が現れた。まるでポッ
カリと水中から水面へ飛び出した感覚に似て、ヒョイと山頂に飛び出した。結局、「椿の
滝」は気付かなかった。

色とりどりのプレートと可愛い鳥居がある山頂風景

 6畳間ほどの狭い山頂には大きな木はなく、一辺が欠けた三等三角点と局ヶ岳神社の奥
宮であろう石積みに可愛い鳥居、それに木製の床几が備えられている。一段下がった北側
には巨大な中電の電波反射板が立つ。
そして素晴らしいのはその大展望。南方向は灌木が茂り見難いが、床几の上に乗れば蛇行
する櫛田川、飯高町の町並み、R166の田路トンネルが指呼。更に迷岳方面から大台ヶ
原。東には栗の木岳、修験業山から三峰山へかけての稜線。北西に大洞山、尼ヶ岳、倶留
尊山。青山高原には風力発電のプロペラが十数基。その奥は鈴鹿らしい。そして何といっ
ても北から東にかけての伊勢湾の眺めである。ところが反射板が邪魔。がそこは中電さん
も考えてくれたのだろう。反射板の下の足場に出られ展望台になっているのだ。そこから
は津の当たりだろうか、弓なりに湾曲した海岸線はそして知多半島らしい薄い影が望める。
東側には鳥羽の答志島らしい島影。晴れていれば御岳やひょっとして富士山まで眺められ
る可能性もあるであろう。

局ヶ岳山頂から西側、栗の木岳から修験業山、
三峰山に続く山並み
北方向の津方面を見る。
弓なりの伊勢湾が分かるでしょうか

 赤とんぼが群れ飛ぶ中、床几で食事の用意をしていると、ようやくポツポツと登山者が
上がってきて賑やかになる。不思議と夫婦連れが多い。京都府加茂町の人、さっきの地元
勢和町の方や松阪市の方。飯南町の仁垣コースからも一組。最後は単独おねえさん。それ
ぞれ景色に感嘆している。松阪の方には堀坂山や白猪山を教えてもらった。

 双眼鏡を出して、伊勢湾に浮かぶ船や周囲の山々を眺めていると、気がつけばもう1時
間半も山頂にいる。惜しいがそろそろ下山せねば。皆さんにお先に失礼して往路を下り、
小峠へ向かう。

 滑るぞ、滑るぞと注意したにも拘わらず、浮石に滑って尻餅を撞きつつ小峠まで戻ると
先に下山した、往路で一緒になった勢和町のご夫婦が休憩中。東に降りている踏み跡が旧
道かどうか決めかねている様子。手元にある飯高町のHPからコピーした概念図を見せて、
一緒に下りましょうかということになる。

 こちらの道は、深谷川の源頭の谷筋を下っていく道。周囲は植林が続き、展望は一切無
い。しかし、ミカエリソウの群落が至る所にある。未だ少し早いと見えて萌葱色した棒状
の蕾が多いが、早いものはピンクのブラシのような花穂を開いている。所々にはホトトギ
ス。中には斑点が目立たぬ白いものもある。更に白いマツカゼソウ、赤いミズヒキ。

 前方に雨が降れば滝になりそうな岩の斜面。道はそれを避けるように折れる。虎ロープ
ならぬ細引きの様な紐が張られた斜面を降りる。幾つか大人の頭大の石が転がる沢を横断
する。概念図にあった「ガラ場」とはこのことらしい。やがて下から水の音が聞こえ出す。
小さな水流が落下しているが、下流で伏流となるのか涸れた沢になる。その右岸を着かず
離れず。下るに従ってやや開けてきて左手に758mの標高点ピークが現れる。所々に飯
高町が立てたグリーンのプラスチック製の登山道標識があるが壊れているものが多い。

 いつしかご夫婦と別れて先行するうち、再び聞こえだした水音も徐々に賑やかになり、
下方の木々の隙間から何やら白いものが見えだした。正体は砂防堤のコンクリート。まだ
工事半ばで右岸に作業道が敷設されている。お陰で登山道は消えてしまい、作業道を歩か
ねばならない。青いペンキの木柵が目印である。それに従って200m程下ると、作業道
と別れて、右手の杉桧林に登山道が復活する。川音を聞きながら暫く下れば、ポンッと開
かれた空間に飛び出す感じでコンクリートの林道に飛び出す。ここが旧道の登山口で、例
の中電の維持道標識と、飯高町の緑の登山道標識がある。

旧道の登山口。作業林道「鯉ヶ谷線」を
300m程登ります。

 余韻に浸りながら林道を下る。10分足らずで林道は、左から深谷川を跨いできた林道
三峰・局ヶ岳線へ合流する。ここに作業道「鯉が谷線」との標識はあるが、登山口の案内
はなかった。

 局ヶ岳神社は幅一間程度の可愛い神社で、祠までこぢんまりした参道が10m程付属し
ている。祭神は市杵嶋姫命でアマテラスが口から生成した女神で九州の宗像神社の祭神で
有名。短い参道を下ればツリガネニンジンの咲く駐車地でありました。

 この後、一汗流しに香肌峡のスメールへ。一年ぶりの露天風呂にゆったり浸かった後、
帰路につく。幸い渋滞もなく6時前には帰宅。往復305qは些か遠かったけれど、久々
に山に登った気分でした。


【追伸】
 飯高町のHPやガイド本には、旧道から登り新道で下るように案内したものもあるが、
 以下の点から逆の選択の方が分かりよくまた楽のようだ。
 @本文にもあるように、旧道は神社横からの林道の突き当たりにある道標は新道方向を
  示し、旧道への案内は無い為、初めての登山者には甚だ分かりづらい。
  尚、旧道へは山側につけられた作業道「鯉ヶ谷線」を遡行するが、旧道登山口を約1
  0分進むと再び砂防堤の作業道に吸収される。これを暫く進んだ突き当たりに植林帯
  へ続くやや荒れた旧登山道が現れ、後は一本道だがやや急登。
 A新道の下りでは、幅広の新しい道がつけられていて紛らわしく、時折現れる登山道と
  印刷されたビニール製の幅広テープ以外、登山道標識もなく、時間ロスする可能性が
  ある。

【更に追伸】
    最近の天気予報はとみにあてにならない感じ。間違ったときの苦情が恐くて、無
    難により悪い方へ予想しがちなんじゃなかろうか。とくに休日にその傾向が強い。
    『必ず出発前にヤフー等のピンポイント予報を確認すべし』ですね。



【タイムチャート】
7:00自宅発
9:20〜9:35局ヶ岳神社前(駐車地)(Ca300m)
9:52新道(椿コース)登山口
10:56旧小峠
11:06小峠
11:24〜12:52局ヶ岳(1028.8m 三等三角点)
13:03小峠(旧道分岐)
13:55砂防堰堤横
14:04コンクリート舗装林道(鯉ヶ谷線)
14:10局ヶ岳神社前(駐車地)


局ヶ岳のデータ
【所在地】三重県飯南郡飯高町、飯南郡飯南町
【標高】1028.9m(三等三角点)
【備考】 中央構造線沿いに三峰山の東側に連なる独立峰で、その
鋭い姿から「伊勢の槍ヶ岳」と呼ばれ、白猪山、堀坂山
と並んで伊勢三山を成しています。山名の由来は北畠氏
に仕えていた女官の秘話からとも伝えられ、その姿通り、
山頂直下は急傾斜で山頂も狭いですが、360度の展望
が得られ、伊勢湾も望めます。
■近畿百名山■関西百名山
【参考】2.5万図『宮前』



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