小辺路を辿って伯母子岳

平成14年 6月23日(日)
【天候】 曇り
【同行】 別掲
登山道から漸く姿を現した伯母子岳の優美な姿


 日本二百名山伯母子岳と蛍鑑賞を組み合わせた一泊オフがSさんの音頭で催される事に
なった。年中、寒貧としている小生だが、少ないながらも賞与が出た後だし、清水の舞台
から飛び降りた積もりで参加、とはちと大袈裟かなぁ。(^^;

 宿泊は西吉野村の村営西吉野荘。西吉野村へはR168を採るのが普通。が、今回は司
馬遼太郎の「街道を行く」の丹生街道編を参考に県道20号線を下市から行くことにした。

 吉野川を渡ってR309を暫く南へ進む内に西吉野村へ向かうY字路がある。これが県
道20号線。高原状のアップダウンには柿畑が多い。栃原では西に金剛・葛城の山並みが
大きく立ちはだかるのが見える。道は狭くなったり広くなったりして樺の木峠に出る。ハ
イキングコースになっているとみえて道標がある。

 やがて右手にもみじ川の流れが現れ、道はそれに沿う様に下っていく。十日市は旧白銀
村の主邑。川の合流点で小さな平地がある。トンネルを抜け、鹿場、川岸と集落を過ぎれ
ば民家が増えてきて役場のある城戸。西吉野荘は川の右岸にある。その上には新しい「き
すみ館」が建っていて、日帰り温泉施設となっている。時間があるので村営の山草売場な
どを見て廻る。因みに司馬さんは城戸の北の黒渕に泊まったという。

 風呂に入ったりしている内に、参加メンバーが三々五々集合してきて、賑やかに夕食。
そして待望の酒盛り。ほろ酔い加減の7時過ぎ、西吉野荘の車でホタル鑑賞に出発。やや
季節を外した感もあり、数多飛び回る程では無かったが、フワリフワリと漂いながら明滅
する幻想的な光に時間を忘れる瞬間。雲間から現れた月影と久しぶりに見る降るような星
の間には、人工衛星までもが目撃された。

 旅館に戻ってまたまた酒盛り。それでも明日遅くなるといけないと12時に就寝。それ
がなければ、徹夜で酒宴だったに違いない。(笑)

 翌日。メンバーの朝は早い。6時には朝風呂に入る人がうろうろ。前夜の酒が残ってい
る人もいて宴会後の相変わらずの風景が展開する。生憎、空は鉛色で今にも泣き出しそう
な気配であったが、朝食の頃にはとうとう小糠雨が音もなく降り出した。それでも予報は
降水確率10%だそうだ。その予報通り、8時半の出発時には止んで、雲間から薄日も射
す状態となる。「我々が行く所、雨は降らない」の逆ジンクスは今日も健在。(笑)

 途中で、若干食料を仕入れて猿谷ダムから県道高野天川線を進む。しかしこれが遠かっ
た。山岳地帯を2つ越さねばならないのである。雲海展望地からは荒神岳の山並みが高い。
平維盛の伝承のある平の集落をようやく抜けて、大股に着いた時には1時間半近くを要し
ていた。

 大股は川原樋川沿いにある集落。車が数台置ける大股橋の両たもとにある空き地は満車
で、やや戻った辺りの空き地に車をとめる。

 準備を整えて大股橋に集合。真新しい無人休憩所があって、登山届の他に案内図がもら
える。早速頂く。橋から眺めると、川岸は緑の中に点々と野生のサツキの赤い花に彩られ、
石垣には白いユキノシタが満開である。ところで川原樋川は清流と聞いていたのだが、成
る程、水も澄んでいてカジカの鳴き声も聞こえてくるのだが、何か青い藻らしきものが石
に付着しているのが気になった。ダンプが頻繁に通る上流での林道工事が悪影響を与えて
いるのだろうか?
大股集落の中、小辺路を伝っていざ伯母子岳へ

 橋を渡ると辻に先の戦争での戦死者の墓が並んでいる。この狭い集落でこれだけの戦死
者だ。戦いの過酷さが忍ばれる。そこを右に折れると小辺路街道の標識がコンクリート壁
に懸かる。小辺路は霊峰高野と熊野を結ぶ重要な道であったという。大股もその重要な中
継点であったに違いないが、今はひっそりとした過疎の集落。民家の間の狭いコンクリー
ト舗装の急坂道を登って行く。すぐに集落の上の畑から墓地に出て、小辺路は杉の植林帯
の中へ吸い込まれていく。ポツンポツンという感じそのままに、ササユリが芳香を放って
いる。しかもピンクが濃い。大阪近辺ではもうとっくに散っているのだが、今年は又会え
た。

 いきなりの急坂は山腹を稲妻状に折れながら一気に高度を稼いでいくが、無風で湿度が
高いので見る間に汗が首筋を伝う。エンジンがかかる前の体には結構これが堪える。時々
姿を現すササユリが慰め。
馥郁とした香りを振りまき、今を盛りとササユリ

 ゴロ石の転がるジグザグ道を抜け出すと萱小屋跡に出る。昔、旅籠だったらしいが、今
は廃材と化した柱類がうずたかく積もっているだけ。残された石垣と、植えられていたの
であろうシャクナゲやサツキの類に往時を偲ぶのみである。廃材の間を歩いてみると、錆
びた鍋や釜が転がっていて、その中に昭和32年と書かれた大阪営林局の「火の用心」の
金属プレートを発見。悪戯心で道標に立てかけておいた。

もとは旅籠だったという萱小屋の廃墟

 萱小屋を過ぎるとようやく周囲は雑木の林となる。しかし、小辺路というからもっと風
情があると思えば、整備しすぎてまるで林道だ。所々で見受けられる、今はヤブに還って
いる旧道の方が余程人間臭い。無理して道幅を広げるものだから各所で既に崩壊が始まっ
ている。在る所では拡幅した為に、露出したミズナラと思しき大木の根を半分切ってしま
うという無惨さである。村おこしが村つぶしにならねば良いのだが・・・・。

 この辺りからササユリに代わってフタリシズカとコアジサイが目立つようになる。崖地
にはミヤマオダマキ。モミのような針葉樹も増えてくる。

 小辺路は微妙に山頂をトラバースしながら続く。そして桧峠はあまり峠らしくない峠で、
再び現れた桧の植林に囲まれた峠である。更に進めば5分程で夏虫山分岐に出る。ここか
ら夏虫山へは直線で500m程の尾根道だが、本命は伯母子岳なので帰りに気が向けば立
ち寄ることにして前へ。

 山腹を巻く様にして夏虫山を過ぎると、木々の切れ目からようやく伯母子岳の稜線が谷
を隔てて眺められるようになる。(冒頭の写真)角を丸めた三角形と云えばいいだろうか、
なかなか優美な姿で、その左手にやや離れて、頂上だけガスが懸かった赤谷嶺がある。

 ほとんどアップダウンなしに十字路に出る。左は山小屋のある伯母子峠。右は護摩壇山
への縦走路で直進は伯母子岳。「南無阿弥陀仏」と彫られた石の道標が立つ。まずは伯母
子岳へ直進するが、この山の良さはここからだろう。リョウブ、コナラ、ミズナラ、ブナ、
モミ等の雑木林に囲まれた清々しい道である。但し、標高差約100mの急登。痩せた雑
木帯を滴る汗を拭ってほぼ一直線に抜けると、低い笹原に飛び出して多くの山名板が懸か
る頂上に立つ。

 山頂には登ってきた道以外に、護摩壇山への縦走路からの道、それに伯母子峠からの道
と三方から集まってきているが、残念ながらここに三角点はなく、それに似た石標が埋ま
っているのみ。が、特筆物はそこに待ち受けている、ゼイゼイと息を切らして登ってきた
辛さを補って余りある大展望であろう。北には緑深い夏虫山。その肩から遠く地平にかけ
て何と微かに海が白い薄紙の様に見えるではないか。更に金剛・葛城の山並みから紀泉の
三国山のドームも小さく見えている。西には牛首の峰へ続く稜線から護摩壇山。南には鉾
尖岳から果無山系。東側は木に遮られてはいるが大峰山脈の南部分。北にも沢山の山々が
波の様にたたなづいているのだが、如何せんよく分からない。

頂上西側、牛首の峰への稜線から奧に護摩壇山
山頂から北西方向。夏虫山の左肩には海が見えました

 立っていると汗で濡れたシャツで寒い。取りあえず食事。しかし宿で昼用のおにぎりを
断られた為に、手元には途中で仕入れた餡パンとカップヌードルしかない。まっいいか!
取りあえず、ラーメンで体を暖めることにした。

 食後は記念写真と再び山座同定。すぐに時間がたつ。もう少し居たかったが、集団行動
の常、我が儘は許されない。後ろ髪を引かれる思いで山頂を後にする。(^^;

 伯母子峠への道も緑の中の素晴らしい道である。時折、東方向が開けて地平に大峰山脈。
南大峰だけに山名はサッパリ。犬歯の如く突出したのは大日岳とか。大普賢岳に似たゴツ
ゴツした山が一際目立つ。

 伯母子峠に着く。大正年間に建てられた「すぐ(まっすぐ)十津川云々」の石標としっ
かりした避難小屋がある。5,6人も泊まれそうな小屋の中は板の間で、大きな布がロー
プに吊され、近くに水場もあるとの説明書きもある。が、モトクロスバイクの連中が屯ろ
していて艶消し。さっきから聞こえていた爆音の主だ。その為ゆっくりもしておられず、
一息入れただけで先へ進むことにした。

 夏虫山にはピストンにならざるを得ず、展望もなさそうということもあり、やっぱりみ
んな気乗りしない様子。又今度と云うことで残念ながら今日はパスとなった。(^^;

 往路で蕾であったササユリが開花しているのを楽しんだり、野鳥の声に耳を澄ませたり、
思い思いに雑談したりで、結構長い山道をあっという間に下りきる。下りで踏ん張った為
か、やや内股が痛かった。

 2時50分、大股登山口着。全員の無事を確認して、蛍鑑賞の夕べと二百名山に登ると
いう充実オフは解散。オフの参加の皆さんお疲れでした。コーディネイトの労をとって頂
いたSさんに感謝です。



【同行】 大加茂さん、呉春さん、幸さん、杉崎さん、つむぎさん、なためさん、水谷さ
     ん、みーとさん、もぐもぐさん

【タイムチャート】
8:30西吉野荘発
9:50〜10:00大股登山口(Ca650m)
10:40〜10:45萱小屋跡
11:29〜11:35桧峠
11:38夏虫山分岐
12:02十字路(護摩壇山、伯母子峠分岐)
12:16〜12:50伯母子岳(1344m)
13:00〜13:05伯母子峠
13:20十字路
13:45〜13:46桧峠
14:20〜14:25萱小屋跡
14:50大股登山口



伯母子岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡野迫川村・吉野郡十津川村
【標高】1344m
【備考】 奧高野の護摩檀山から東に連なる山塊の中の独立峰です。
昔、長者が山深くに住む美貌の女性に乳母を頼んだとい
う伝説から命名されたと云い、たおやかな姿です。
日本二百名山に選ばれるだけあってその山頂からは36
0度の大展望が得られます。また、その肩を高野山から
熊野へ向かう小辺路が通じていました。
交通が不便な為、マイカー以外では日帰りは無理です。
■日本二百名山■近畿百名山■関西百名山
【参考】2.5万図『伯母子岳』、『上垣内』



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