貴公子花紀行〜御祓山で花の精に会う

平成14年 4月6日(土)
【天候】 曇りのち小雨
【同行】 別掲
樹齢600年といわれる『みづめ桜』


 この時期になると桜の開花情報が気になるのが日本人。ところで櫻と云えば、根尾村の
淡墨桜をはじめ日本各地に古木があるが、近畿では奈良県の仏隆寺のヤマザクラと共に兵
庫県大屋町の樽見の大桜が有名。ところがその大屋町にもう一つ桜の古木があると、2月
発売の『新ハイキング 関西の山 陽春』の記載で知った。

 大屋町と養父町の境にある三等三角点ピークの御祓山。その西の中腹に孤高を保つ『糸
原のみづめ桜』と呼ばれる樹齢600年の桜がそれである。山登りもかねて一度その桜の
精に会いに行きたいものだと思っていたところ、「低徘」仲間のしまださんが土曜に行く
という。丁度その日は同じ「低徘」のたぬきさんに丹波の山を案内して頂くつもりがだっ
たのだが、急遽矛先変更。がそれが結果的に大正解。桜のみならずミツバツツジの大群落
に酔い、更に残雪の氷ノ山、日本の滝50選にも選ばれた天滝の遠望も得られ、稀にみる
充実の花紀行となったのである。

 集合地の道の駅『但馬楽座』へは9時過ぎ到着。西に見える山々には点々と白い霞がた
なびいている。都会では散った桜も山里では満開。今日の『みづめ桜』に期待も膨らむ。
その内に、しまださん、たぬきさんが到着。定刻9時半、現地に向けて出発である。

 大屋川沿いに県道を西に遡る。川に寄り添うように開けた集落には黄色の山吹、ピンク
に染まる桃畑、小学校では時折吹く強い風に桜の花びらが舞い、誠に桃源郷の雰囲気であ
る。

 大屋市場から明延川に沿ってしばらく、糸原の集落を抜けると左手に真新しい案内板が
立てられており、奧には新しく造成された駐車場があった。先着の八木さん夫妻の他にも
数台の車があった。

 取り付きの植林帯入口には机が置かれ、みづめ桜にまつわる恋文の募集要項とパンフが
置かれてある。パンフには「幻の大櫻 糸原のみづめ櫻」とあった。櫻迄1.6qの標識。
ほの暗い、左に細流の流れる狭い林道を辿る。暗がりにポッと白く浮き出ているのはミツ
マタの花。杉林の根元にはミヤマカタバミの花がまき散らしたようであったが、まだ花を
開いていない。左手の古いトイレ風の小屋は古い水源タンク小屋である。

 古いトロッコ軌道の廃線レールが利用された橋を渡り、左手に曲がって植林帯をくぐり
抜ける。周囲が開け、ようやく山筋が見えてくるようになるとミツバツツジの花が目に飛
び込んできた。気がつくとそれは一本だけではなく、なんと斜面一体が藤紫に彩られてい
るではないか。パンフレットには『ツツジ回廊』とあったが、これ程の規模とは思わなか
った。

 同じツツジでも濃淡微妙に色合いが違う。その花の間を道は尾根を直登するようにつけ
られている。かなりの急傾斜であるが、ツツジに気を取られて余り気にもならない。

見事に咲いたミツバツツジの急斜面を行く

ツツジのピンクに染まる『ツツジ回廊』の斜面

 気がつけば須留ヶ峰、大杉山が背後に大きく広がっていたが、秀麗であったのは西の方、
斑の雪を頂いた氷ノ山である。藤紫のツツジの奧に畳なづく白い山並みは春と冬の微妙な
コントラストである。暫し見とれながら小休止。

ミツバツツジの花の向こうに残雪の氷ノ山が見える

 ウグイスの声に混じってコガラかクマゲラのドラミングの音が響く。谷を隔てて白いヤ
マザクラが点々と山肌を彩っているのが風景画のようだ。

 512m標高点を越え、再び現れた杉林を鞍部に下ってまた登りにかかると、前方に白
い雲の様な塊が目に入ってくる。『みづめ桜』に違いない(冒頭の画像参照)。が、案外
小さいではないか。もっと巨木を想像したのだが....。しかしそれは錯覚、近づくと遠
で見るよりよほど大きいことが分かった。

 『みづめ桜』は樹齢約600年のエドヒガンザクラ。樹高21.5m、幹廻り5.3m、
の巨樹である。
「昔、武衛門という人が畑を開いていました。畑の上にエドヒガン桜あり。武衛門は桜を
見つめながら仕事に励み、桜は武衛門の仕事ぶりを見つめ年を重ねました。武衛門亡き後、
誰云うとなく「ブエン畑のみづめ桜」と云うようになったとか」(パンフレットより)

 老樹の為、根元は空洞になっており、種が飛んできて他の植物が茂っている。その桜を
囲んで弁当を食べる人、写真を撮る人。華麗なソメイヨシノも良いが、やはり桜は山中に
咲くヤマザクラにしくはない。

 殆どの人はここまで。それもそのはず『みづめ桜』の咲く斜面から上は、はっきりした
道がない。上に向かうのは山に興味のある人だけだろう。その類の我々はともかく上へ向
かう。しかし非常な急斜面ですぐに息が切れ汗ばんでくる。

 斜面をこなしてようやく尾根に出ると、右手からはっきりした道が登ってきている。『
みづめ桜』から尾根へ出る道は元々無かった様で、この道が本来の道なのだろう。

 尾根に出た後は一部、山腹をへつる感じの少々注意が必要な部分もあるが、総体的に赤
プラ杭も埋まるはっきりした道になる。時折、黒いチューブ状の物が埋まっているのが、
不思議だったが、途中の雑木の枯葉の中にTV放送中継用の機器の残骸が半ば埋まりつつ
転がっていたので飲み込めた。この辺りから高度を上げるに従ってアセビの木が増えてく
る。が、白い花穂を垂れているのは少ない。

 この前の掃雲峰に劣らない雑木の素晴らしい林を抜けると再び急登となる。こちらも半
端ではない。引いた汗がまた額を濡らす。高度も700mを越えているので、もう一息我
慢すりゃ食事だと体に言い聞かせて、やっとの思いで登り詰めた所が、御祓山の丸い頂上
であった。

 角が大きくかけた三等三角点の周りは切り開き。周囲は太い赤松の疎林と沢山の花をつ
けたアセビが目立つ。肝腎の展望であるがこれは仲々のもの。松林を通して雪を戴く氷ノ
山、ここからも天滝が見える。南に須留が峰、大杉山。アンテナのある粟鹿山。巨大な滑
り台状の山は三国が岳だそうだ。加美アルプスから千が峰も姿を現していて、見飽きるこ
とがない。時間を忘れるひとときである。

 やや厚い雲に覆われ出したと思ったら、昼食時についにぱらっと来た。しかしそれ以上
強まることもなく、急いで食べ終わって後片づけをしている内に止んでしまった。人騒が
せな雨である。

 恒例の山頂の記念撮影の後も思い思いに集まって話に花が咲く。食後のひととき最も会
話が弾む至福の時だ。雨が止んだこととて、結局、そんなこんなで1時間近く山頂にいた
であろうか。

 さて、下山のコース。ピストンは皆さん面白くないと云うので、いい稜線のアップダウ
ンが続くカカナベ峠へのルートを降ろうかとの意見もあったが、天候の悪化が予報以上に
早いこと、長い林道歩きを含めてこれから約3時間はかかりそうな道のり等を考慮して、
さっきの尾根の分岐を左へ降りることとなった。

 登りがきつかっただけに下りはアッという間である。滑る様に下る。時折、本当に滑っ
たが....。(^^;)
 
 先程の尾根に戻り左の道へ。最初非常に良い道だと思われたが、まもなく事情は一変す
る。山肌を巻く感じで付けられた道だったのだが、次第に厳しくなる。急斜面と落ち葉、
ザレた土の為に良く滑る。その間、ずっと虎ロープ。おっかなびっくり慎重に歩を進める。
踏み跡はやや薄くなって右に折れ尾根を下るのだが、ここが先程以上にきつい傾斜で、落
ち葉も溜まらぬ位。しかもザレ土。立木も枯れているのがあるから始末が悪い。延々と用
意されている虎ロープを持たざるを得ず、摩擦で手が熱い。

 足元ばかりに目がいっていたが、ふと顔を上げると右の杉の木に「みづめ桜まで○○m」
と書かれた道標が目に飛び込んできた。
「こんなとこ上がってくるの、おらんでぇ」「案内板の所を曲がるんかなぁ?」不思議な
案内標識だ。
 
 鹿除けネットがが現れた。この辺りから再びミツバツツジの群落。往路の回廊ではツツ
ジ以外の雑木が伐採されていたが、こちらは自然のまま。それが又良い。尾根の途中には、
右手(北側)の谷を隔ててツツジ回廊が一望出来る場所がある。尾根沿いはツツジで「サ
クラでんぶ」をまき散らした様に染まっている。その間には散策するハイカーの姿。暫し、
早い春爛漫を楽しむ。

 更に尾根を下って行き着いた先は杉林の中。沢音が聞こえだす。朽ちた丸木橋のある沢
を渡ると、往路の林道に合流したが、目印になるテープの類はなし。初めてだとこっちか
ら取り付く人は皆無だろう。

 駐車場に着く頃には再び雨が落ちてきた。

 例年以上に早い春。慌てん坊の山の神が花の精となって一気に山里に舞い降りてきた4
月。素朴な中にも可憐な野生の花に出会えた花三昧の一日であ。雨の神も猶予してくれた
のであろう帰路には本降りであった。


【同行】石田さん、しまださん、たぬきさん夫妻、八木さん夫妻(50音順)


【タイムチャート】
6:50自宅発
9:10〜9:30但馬楽座(集合地)
10:00〜10:10糸原の駐車場(Ca200m)
10:50〜10:55氷ノ山・天滝を望む尾根
11:05512m標高点東の鞍部(Ca500m)
11:15〜11:20みづめ桜
11:55〜12:40御祓山(773.1m 三等三角点)
12:58尾根分岐
13:25ツツジ回廊展望地
13:53往路合流(用水糟横)
14:00糸原の駐車場



御祓山のデータ
【所在地】兵庫県養父郡大屋町
【標高】773.1m(三等三角点)
【備考】 兵庫県第一の高山氷ノ山の東、大屋町と養父町の町境に
位置する山です。東側の中腹に樹齢600年の『みづめ
桜』があり、春はミツバツツジの群落の藤紫と妍を競い
ます。
尚、みづめ桜へは整備された道がありますが、御祓山へ
は急傾斜の道が続くので登山靴などの準備が必要です。
【参考】2.5万図『大屋市場』



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