高竜寺ヶ岳〜丹但国境は落ち葉の絨毯 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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尉ヶ畑峠から高竜寺岳の尾根道は フカフカの落ち葉の絨毯 |
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職場で恒例の蟹ツアー。折角、但馬へ遠出するなら、そのまま帰るのももったいないと 去年から帰路に、何処か山に寄っていくことにしている。その第一回目は、京都丹波の名 山、三岳山だった。思いもかけず雲海にも巡り会えた静かな山歩きだったが、早いもので あれからもう1年だ。 さて今年は何処にするかなぁ?とつらつら考えたが、帰路からそんなに寄り道せずに済 み、且つ、たじまもりさんのHPでブナの林が良いと紹介されているのが高竜寺ヶ岳。う まくいけば日本海も望めそうだしというわけで今回はここに狙いを定める。 出石町から但東町役場を経てR482を東進、坂野の集落に入ると、左手に一際ピラミ ダルな山容が見えてくる。あれが高竜寺ヶ岳だろうか?「登りきつそうやなぁ」。期待と 不安。
前に登山口の標識があったが、今日はトンネルを抜けた久美浜町側からだ。トンネルをち ょうど出た左手に、電話ボックスと久美浜町の案内図がある。その向かいの広い空き地に 車をとめる。先行車はおろか誰もいない。灰色の雲が頭上を覆い始めた。ここへ来るまで には時雨にも遭遇していたが、やっぱり太陽が出ないと何となく気が滅入るなぁ。(^^;)
流に架かる峠谷橋を渡る。舗装された林道が鬱蒼としたクマザサと杉林の中に吸い込まれ ていく。殆ど平坦な道を沢音を聞きながら歩く。 何か出てきそうな予感がするなと考えた途端である。左の杉林の斜面からガサッと大き な音に続いて、ポキポキと枯れ枝が折れる音。見れば一頭の鹿がこちらを窺いながら山腹 を登っていくところであった。あっという間に姿は消えたが、なんともドッキリさせてく れるものだ。 気付かぬ内に林道は地道に変わり、暫くすると私製の標識が現れる。「高竜寺岳登山口 1.9q 坂野区ふる里活性化委員会」とある。以後、この委員会の道標には何かとお 世話になることになる。そばの岩には10本程の杖が立てかけてあった。 ここから沢を渡って、ようやく山肌に取り付くことになる。ジグザグに登って小さな尾 根に乗る。突然、杉の梢をサーっと黒い影が登っていく。今度はニホンリス。ふかふかの 尾っぽを翻し、木陰に消えた。余程、ここは動物が豊富な山とみえる。この後も、到る所 で獣臭い匂いを嗅いだ。 いつしか杉林を抜けて雑木主体の明るい林になると、気分も嘘の様に明るくなる。よく 整備され遊歩道然とした道は、この辺りから黄色や茶色の落ち葉が積み重なるしっとりと した雰囲気。名も知らぬ鳥が驚いて飛びたっていく。そろそろ息が切れてきた頃、小さな カーブを曲がった所にあったのが「休み石」。幅1m位の平坦な石で、休み石とは言い得 て妙な名前である。座って一息入れる。 徐々に勾配を増した道から右手の谷を隔てて、ようやく高竜寺ヶ岳が全容を見せて始め る。左半身(兵庫側)は植林の深緑だが、右半身(京都側)は色とりどりの雑木だ。稜線 を見ると裸木が密集しているのが分かる。ひょっとしてあれがブナだろうか。が、まだ結 構遠い。
但馬側の坂野を結ぶ古道だったらしく、ガイド本に石仏ありとの記述があったが、探して みたがついに発見出来ず仕舞であった。ところでこの「尉ヶ畑」という地名が面白い。検 非違使に就いていた男の領地が在ったのか、それとも老翁の耕す畑が在ったのだろうか? そんなくだらぬことを考えながら、右に折れて尾根沿いの地道の林道を進む。盛りを過ぎ、 穂が毛羽立ったススキがおいでおいでをする。足元所々にイワカガミの光沢のある大きな 葉が目立つようになる。春はさぞかしと思わずに入られない。 林道出合いのT字路に出る。坂野から上がってくる林道らしい。これを過ごして、なお も直進すると、道は林道と分かれて右の尾根を伝っていくようになる。ガイド本にある下 っいく林道に注意とあるのはここらしいが、ここにも「頂上入口」と件の委員会の道標が あって迷いようもない。 林道の左の谷に流れ込む細流の水音が大きく聞こえてくる。この辺りからそろそろお目 当ての一つ、ブナの木が目立ち出す。左手がガレた部分を抜けると、「ブナの大木 樹齢 250年」と大書された標識があって、見るとやや下に灰白色の大きな幹を持つブナ。残念 ながら右半分が折れて倒れている。生きているのかどうか葉を落とした今の季節は不明だ。 来年また緑の芽を吹くことを祈るばかりである。 この標識のある場所は北方向が良く見渡せ、丸太のベンチも置かれている。眼下には尉 ヶ畑の集落とR487のグレーの帯。それらを眺めつつ歩く道には深々と積もった落ち葉。 カサコソと歩く度に音を立てる。時折射す薄日に気分も爽快。「いいねえ。いいねえ。」 またまた独り言である。 遠かった高竜寺ヶ岳の山頂も次第に近づいてきた。「あと30分」と些かお節介な標識。 GPSの残り距離と見比べると「へっ?まだ30分もあるのかぁ?」と首を傾げたくなる が..。
真っ只中だが、つづら折れにも拘らずかなりの急勾配である。エッチラオッチラ、息が切 れる。またまた「あと10分」の標識。落ち葉に滑りつつフウフウ言いながら登ると、東屋 が視界に入ってきて、やっとのこと無人の山頂に到着である。「フーッ」。
標識と松の木。その下に二等三角点がある。東屋にザックを置いて、何はともあれ景色を 楽しむ。東に饅頭のような目立つ山は磯砂山。遠く霞むのが大江山。南に富士山型の東里 ヶ岳。床尾山も見えるらしいがどれかはっきりしない。西には来日岳、法沢山、蘇武岳も 見えるというがブナ林が若干邪魔をする。しかし、何よりも北方の久美浜湾と小天橋がい い。その向こうは日本海である。やや霞んではいるのが残念だが、朝からの霧と時雨で「 ひょっとして駄目かもなぁ」と諦めかけていたことを考えれば、姿を拝めただけでも良し とせにゃあなぁ。一段落したところで食事。山頂独り占めの贅沢な?昼食である。
み跡があったがこれは縦走路だろうか。その先にフェンスで囲まれたエリアがあったが、 何があるのか確かめていない。 些か寒くなってきたので下山にかかる。ブナは木によってまだ茶色の葉を残しているも のも、落としきったものもある。曲がりくねった枝は季節風の強さを示しているのか。分 厚い所では10pはあろうかという落ち葉の絨毯を踏んでいると、下からカランカランと熊 除けの鐘の音が響いてきた。現れたのは単独おじさん。「お気をつけて」とすれ違う。今 日この山で唯一遭遇した人間であった。(^^;) またまたどこからか獣の匂い。と思った瞬間、突然、「ダーン」という銃声らしき音が 山々に木霊した。そういえばもう猟解禁だったのだ。途端に怖気づくが、音は遠かったし、 犬の声も聞こえぬし、藪をこぐ道でもなしと思い直すことにしたが、それでも自然と足は 早まる。まっ、それっきり銃声は聞かれぬままであったのは幸いであった。 再び尉ヶ畑峠。東へ延びる林道は使われていないのか、蔓延ったススキの穂も白く毛羽 だち、荒涼としている。少し分け入って石仏を探したが矢っ張り見つからず。少しく心残 りではあった。 往路の長さに較べれば、復路は短いもの。杉林が現れたと思ったら、あっという間に沢 音が近づいてきて、そこは林道終端の登山口であった。 里に近いにも関わらず、これだけのブナの自然林と動物相の濃厚な山が残っているのは 驚きである。道も整備され、麓の人々に愛されている山なのだとの思いを深くした丹但国 境の高竜寺ヶ岳。晩秋のしっとり静かな山歩きでした。
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