古宝山〜宝塚深奥部のおっぱい山

平成14年 1月27日(日)
【天候】 曇り時々しぐれ
【同行】 単独
宝塚市境野から眺める古宝山。おっぱい山の名
に相応しいでしょう?


 宝塚市といえば歌劇、ファミリーランド等、モダンなイメージが頭に浮かぶが、その北
部は心も和む里山や田園に囲まれ、昔懐かしい集落の姿が残り、とても同じ宝塚市域だと
は想像できない。その宝塚市北部の旧西谷村、千刈貯水池の東側をうろついていると、南
東側に市女笠風のこんもりした風貌を持つ山が目に付く。古宝山である。その姿は「おっ
ぱい山」と仮称しても良い。数年前に大岩ヶ岳に登った時、更に、つい先日、布見ヶ岳、
天狗松に登った時に、最も目立ったのが北の羽束山と東南に位置するこの山である。北の
西谷にある宝山寺の本尊十一面観音が、紀州から津波で流されて来た鳴尾浜から、白い鳥
に乗って清荒神に降り、再び舞い上がって降り立ったのがこの古宝山だという。

 里山でもあり、東から南にかけて関電の高圧線が走っているので、巡視路もあるようだ
が、西麓に玉瀬の集落がある。ここから登路があるに違いない。国土地理院の点の記にも
ここからの道が示されている。とりあえず玉瀬へ向かうことにする。

 十万辻から県道を西に進むと宝塚市玉瀬。右の石垣の上には真言宗大覚寺派の満福寺の
重厚な甍が見える。その向かいに宝塚市の玉瀬公民館が建つ。その駐車場をお借りする。

 準備を終えたが、さて、取付きである。が、よく分からない。公民館そばの公園の横か
ら廃屋を抜けると、幸い、左の山際のシシ除け電線に囲まれた栗林で作業しているおばさ
ん二人がいた。早速、尋ねてみる。
「すみませ〜ん。古宝山へ登る道、ご存じですかぁ?」
「ああ、そこの車道を100m位行ったら左に道があるから登っていったらええよ。八王
子さんへの道が別れるけど、どっち行っても行けるわ。」
「有り難うございます。」

 言われた通り進むと成る程、左に集落の中への道がある。道なりに行くと変形十字路。
真っ直ぐ進んだがこれが民家の庭。そこでまた犬に吠えられる。十字路に戻って今度は左
に。こちらも民家だ。右にガレージ。「松本」と表札のあるお宅であるが、そこを抜ける
と何かしら標識らしきものが目に留まる。塗装が剥がれているが「NHK宝塚玉瀬放送所」
と辛うじて読めた。その標識は左を示しているが、右の踏み跡の方がより明確なので、右
を採る。
取付きにあるNHKの指導標。その矢印とは逆の
方向(写真の道)に進む

 山腹をへつるように暫く進むと分岐。高みを向かう方へ進む。丈の低いササが現れた所
で再び分岐。GPSで山頂方向を確認し、右を採る。(左は八王子社のある350mピー
クへの道で、ここを通っても先で合流します)

 この辺り。岩混じりでツツジ、丈の低いササと松。まるで日本庭園の雰囲気で気分のい
い場所である。右手には六甲の山並み。時雨れているのであろう。山頂は雲の中である。

 日が射してきたと思ったら、それも束の間、時雨が枯葉にサーッと音を立てる。てっき
りその音だと思っていた。すると右手に高さ10m位の滝があるではないか。先程の音は
その流れ落ちる音だったのだ。張り出した岩から眺めると細いがなかなか優美な滝であっ
た。

 道はやがて、先程の滝の上流の沢に沿うようになる。3回ほどこの沢を横切りながら、
コナラ、マツ、ソヨゴ、アセビ、ミツバツツジの混生した中を、分厚く堆積した落ち葉を
踏んで緩く登っていく。沢道で展望もなく、所々倒木もあるがカツラの甘い匂いもする概
して気持ちの良い道だ。

 沢の音がいつの間にか消え、疎林の間から北の空が見えてくる頃、小さな尾根に乗りあ
げると、左からの来た道と合流する。ここから暫く進むと、やや南に振った道は漸く傾斜
を増してくる。落ち葉で靴が滑るが、少しの我慢。間もなく何やら金色のご神体が納まっ
た石の祠と雑木に囲まれた山頂に飛び出した。祠は平成3年4月製らしい。新しいサカキ
が供えられてあった。
古宝山山頂の祠。奧には赤白ポールの立つ三等三角点

 あちこちに字がかすれたプレートがぶら下がっている。サイクリングの青いペナントも
ある。その中に「忘れ去られた山」と書かれたプレートがあった。ふむ、そういえばこの
山、人気のルートから少し離れているしなぁ。エアリアでも活字の扱いは小さい。でも地
形図には立派に山名が記載されている山なのである。

 東西に長い山頂には東へ向けてテープがついているが、関電鉄塔から切畑方面に向かう
踏み跡だろう。祠の奥には三等三角点。赤白ポールが倒れていたので立てておく。

 日が陰り強い風が枝を鳴らすと同時に、また時雨れてきた。昼食は先程の六甲を見晴る
かす滝のある辺りにしよう。

 滝の横に張り出した岩の上にザックを下ろす。滝の音だけが聞こえる静寂の世界。昼食
を食べている内にも日が照っては何度か時雨を繰り返す目まぐるしい天気。寒ければ雪に
違いなかろう。眼下、木の間隠れに阪急田園バスが武田尾方面に消えていく。見えていた
六甲最高峰も雲に隠れたのをしおに立ち上がる。

 シダの中の分岐。北方向へ辿ってみると自然石の石段が現れた。結構きつい傾斜。神社
特有の杉の木が現れ、素朴な木の鳥居を潜って登り詰めると、保護屋根付きの案外立派な
八王子社の白木の祠が建つCa350mピークの山頂。ところが、これが拾い物。東は古宝
山の本峰に邪魔されるものの、ほぼ360度の視界。但し、場所柄、周囲を伐採とはいか
ないので葉が落ちる今のシーズンだけだろうが....。とくにここから見る大船山は秀麗で
ある。昼ヶ岳、羽束山、近くは先週の布見ヶ岳、天狗松。眼下に満福寺と玉瀬の集落。南
には六甲山。

 祠の裏を見ると踏み跡が鞍部に降っていく。先程の尾根上で出会った分岐に続くのであ
ろう。
八王子社の建つCa350m峰からはガスのかかる
大船山の鋭峰が見える

 取り付きに帰って、玉瀬の集落を歩く。山からの水を溜めた小さな池という程でもない
水たまりが多い。そこには水神の化身の石が置かれサカキが供えられてある。家々も大き
く、八王子社といい、素戔嗚尊神社や満福寺といい、なかなか立派で昔から信心深い富裕
な集落だったらしい事が分かる。

 公民館の近く公園に案内図があったので眺める。多田銀山からソエ谷を抜ける古道の解
説である。こちらもいつか辿らねばなぁ。また愉しみが増えた。

 車に戻って、古宝山の姿を撮るべく北の境野へ足を伸ばす。ここは大岩岳を訪れた時に
来た所で、当時、ここからの古宝山が印象的だったのだが、いつ見ても本当にオッパイに
よく似た山だ。(冒頭の写真)

 ほんの1時間前までの天気が嘘のように日が射し青空が広がっている。拭われたような
空気に北摂の山々が渋い色。月が変わればまもなく立春。宝塚の深奥部、「忘れ去られた
山」に相応しく誰にも会わないオッパイ里山探訪記でした。

【参考】古宝山の玉瀬からの取付きについて
 本文にも記述したように、「前田橋」バス停から県道を武田尾方面へ100m程進むと、
逆の北方向に向けて、車道に良くある行先表示板が頭上にかけられています。その辺りに
東に入る生活道路があるのでそれを辿ります。よく観察すると道路脇にNHKの玉瀬放送
所の剥げた案内板も立てられているのに気付きます。変形十字路を左にコンクリートの道
を登り、松本氏宅の前を抜けた畑にNHKの案内板(本文の写真)があり、それが示す方
向とは逆の右の道を辿ります。尚、国土地理院の点の記では「辰巳氏」宅横からとありま
すが、判然としませんでした。

【タイムチャート】
10:20自宅発
11:10〜11:15宝塚市玉瀬公民館(駐車地 226m)
11:25民家横の取付き
11:45〜12:00古宝山(459.4m 三等三角点)
12:25〜12:57Ca350mピーク南中腹の展望地(昼食)
13:00八王子社分岐
13:06〜13:11Ca350mピーク(八王子社)
13:16八王子社分岐
13:20民家横の取付き
13:30宝塚市玉瀬公民館(駐車地 226m)



古宝山のデータ
【所在地】【北摂】兵庫県宝塚市
【標高】459.4m(三等三角点)
【備考】 宝塚市北部に位置する里山です。北側から見ると、市女笠
或いは女性の乳房に似た姿で目立ちます。人工林が少なく
雑木に覆われ、春の芽出しからツツジの候、秋の黄葉、冬
枯れの頃がお薦めです。
宝塚または武田尾から阪急田園バスの「前田橋」が最寄り
です。
【参考】 2.5万図『武田尾』
エアリアマップ『北摂の山々』


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