八ヶ峰〜若丹国境尾根は深緑

平成14年 7月21日(日)
【天候】 曇り時々晴れ
【同行】 単独
706m峰から見る八ヶ峰とその前衛の768m峰


 「こりゃぁ良い道じゃないの」と思わず独り言。ここは美山町田歌から若丹国境に向か
う林道「五波染ヶ谷線」。国道と見まごうばかりの荒れた所もない1.5車線の舗装路で
ある。「遊車道ビレッジライン」と名付けただけのことはあるなあ。何処かで見た『火の
用心』の赤い横断幕があると思ったら、大峰の七面山と同じ王子緑化の文字が。道理で。

 よく手入れされた杉林を抜け、寄り添うような五波谷川から離れて高度を徐々に稼ぐと、
まもなく取付きの五波峠に到着。路肩が広げられた数台の車が止められる空き地には白い
小型車が一台先着していた。

 久方ぶりに遠出したい。暑さが余り堪えず、しかもいい山道と展望が期待出来る山は?
という条件で浮かんだのが今日の目的地の若丹国境にある名山、八ヶ峰。五波峠に登れば
標高も稼げるし、更に、そこからは一度は歩きたかった若丹国境尾根を辿れ、しかも好展
望が望めるとあっては期待は募るばかり。あとは好天を祈るのみ。
 
 梅雨明けしたとは云え、夜半に俄雨。残念ながら湿度が高く、車窓から見える山々の上
部には靄がかかる。陽が登るに従ってやや好転したがそれでも本来青く見えるはずの遠く
の山々が白い。「展望は伸びないかもなぁ」とやや落胆ムードだが、かえって直射日光に
炒られることもないわいと気を取り直し、車を先程の先着車の横に止めたのである。

 五波峠は京都府美山町と福井県名田庄村の府県境。中川元福井県知事揮毫の竣工記念碑
が木陰に立つ。蝉時雨の中、準備を整え取り付きに向かう。

 「えっ?林道歩きなの?」なんと登山道を示す指導標横に、通行止めが施された赤茶け
た地道の林道が延びているのだ。日射しを避ける術とてないその暑い歩きが脳裏を過ぎっ
て、一瞬、またもや落胆しかける。が、よく見ると林道左手に山道があるではないか。思
わず「ふーっ」と一息つく。
五波峠の登山口付近に建設中の林道。登山道はこの左

 素晴らしく手入れされた山道である。左右のクマザサが綺麗に刈り払われている。それ
もつい最近の様で、刈られたササがまだ青いままだ。顔を出した太陽を避けるように急い
で山道へ飛び込む。

 歩きつつ周りを見渡す。あらためて気づいたが道を囲む雑木林はなかなかのもの。ブナ
がある。コナラやイロハモミジがある。その中の一本の幹の中途には数pの緑の細長い双
葉。ヤドリギが芽を出しているのだ。足許には名も知らぬキノコ。その横でカサコソとト
カゲが驚いて草の陰へ逃げ込む。「いいねぇ。いいねぇ。くそ暑いけど」再び独り言。

 道は708ピークの北の端を乗っ越す。いつの間にか並行していた林道も眼下はるかに。
そして、前方にこれから向かう八ヶ峰がその760m前衛峰と共に姿を見せる。
「ん?こりゃぁかなり遠いわぁ」
蒸し暑さの所為で滴る汗に思わず気弱になる。しかもそこから50mも高度の貯金を吐き
出すのだから余計その思いは募る。

 滑りやすい708mピークの下りを終えると、後は小さなアップダウンはあるもののほ
ぼ水平道。すると前方から話し声が聞こえてくる。初老の4人組である。聞くと峠にあっ
た白い小型車の持ち主。地元の方だそうだが、福井ナンバーだったから名田庄村から来ら
れたのだろう。この尾根を数年前に歩いたことがあるそうだが、当時とは大分感じが変わ
っているということだった。

 680mピーク、691mピークと小さなコブを越える。次の698mの標高点ピーク
西付近の峠では、北の福井県側の染ヶ谷にある家族旅行村からの登路が合流してくる。道
標あり。下草はクマザサ。ブナ、イロハモミジ、太いアカマツなどが深緑の天蓋を成して
おり、金剛の千早峠に似た雰囲気の峠である。やれやれ。少し涼しいので小休止。凍らせ
たペットボトルの茶を溶けた分だけ飲み干し、別の方から補充しておく。「夏はこれに限
るわ。」
768m前衛峰付近の深緑に覆われた登山道

 ここからは切り開きの道ではなく、明快だが踏み跡という感じの心地よい道になる。所
々に赤テープ。前衛の760m峰への急登をこなすと、一転、腰から胸程の高さのクマザ
サが覆う道となる。道は一旦、鞍部にでて更に腰までのクマザサを分けて一本調子で登っ
ていく。やがて頭上が開けてきて、それこそ「ポン」という感じで八ヶ峰の山頂に飛び出
した。
八ヶ峰山頂の二等三角点

 山頂は結構広い。大きな木は無く3m程の高さの枝振りの良い松がアクセントである。
東の五波峠、西の知井坂、北の堂本からの道が上がってきていて、その中央に山名標と全
く欠けもない二等三角点が鎮座している。また北側にはオオイワカガミの群落がある。ま
だ花ガラが残っており、満開時の可憐さを髣髴とさせる。そして周囲は、木々に遮られた
北北東を除いて、ぐるりと見渡せる大展望が待っている。本来なら今まで展望がなかった
だけに、感激はひとしおなはずなのだが....。しかし、惜しむらくは靄と何にも増してこ
の地域に不案内なことである。それでもエアリアマップを参考にして、西に頭巾山、西南
には芦生の京大演習林の域内のブナノキ峠や三国峠。一際高い百里ヶ岳、北東に多田ヶ岳。
そして何よりも若狭富士と云われる青葉山の双耳峰が霞みながらも眺められる。空気が澄
んでいれば日本海も拝めるのだが....。残念。

八ヶ峰山頂北側のオオイワカガミ。花殻が残っている

 先着は2人の若い男性パーティ。染ヶ谷の家族旅行村から登ってきたという。そういえ
ば眼下に舗装路と青いロッジの屋根が見える。「何処から来られたんですか?」と問えば
なんと豊中だという。「奇遇ですなぁ。私も豊中なんです。」

 暫く雑談の後、二人は「五波峠に向かう」と先に降りていった。と、入れ替わるように
さっき追い抜いた初老の男女4人組が上がってきた。

 次は4人組と雑談モード。「人の多い所より山の方が好きなんじゃ」とリーダーの小父
さんはのたまう。当方「ふむふむ、同感同感」。

 ザックを広げて食事を始めようとしたその時である。なんとおじさんからよく冷えた缶
ビールの思わぬ差し入れが....。感激で言葉にならなかったのでこれ以上は省略。

 昼食を終えて再び双眼鏡を出して周囲を眺める。八ヶ峰の名前の由来は丹波、丹後、但
馬等、旧8ヶ国が眺められるからだという。それにしても山また山。人工音が全く聞こえ
てこないのが良い。時折聞こえるコガラの声を始めとする鳥の囀りと、蝉の声のみ。キア
ゲハがノアザミの花の上を舞う。長閑な風景だと見とれていたら、膝頭がチクリと痛い。
見れば大きなブヨであった。

八ヶ峰山頂から五波峠からの縦走路を望む
奧は芦生の山々左の白い部分は五波峠近く
の林道工事のザレ場

 その内に八木町から来たという単独小父さん。更に京都からの10名程の団体さん。気
がつけばもう2時間近くも山頂にいたことになる。当初、知井坂の石仏見物も予定だった
のだが、坂の上り下りがきつそうなのと、頂いたビールのお陰で、さっきの意気込みもど
こへやら。次の機会にとあっけなく中止にする。

 因みにこの知井坂、昔、この坂付近で合戦があり、坂は武者の血で赤く染まったという。
それから誰ともなく「血坂」と呼ぶようになったのだが、関西弁は例えば「目」を「目ぇ
ー」、「歯」を「歯ぁー」というふうに、一文字の単語の母音を伸ばすきらいがある。そ
れで「血ィー坂」、更に「知井坂」となったのであろう。

 団体さんに日陰の場所を譲って、余韻を楽しみながら下山にかかる。

 急斜面をずるずる滑りながら、家族村からの道との合流点。今度は家族村から10名程
の団体さんが。何でも「青春18切符」で来たという大阪のメンバ。流石、人気の山であ
る。「この暑さでも登ってくる物好きな人って結構いてるんやぁ。」自分のことはさてお
いて。(^^;

 五波峠の駐車広場には車の数が増えている。竣工記念碑横で汗みずくのTシャツ、半パ
ンを着替えて帰途につく。

 尾根道ということで歩きながらの展望も期待したが、痩せ尾根ではなく、だる尾根が主
でほとんど雑木林の中。だが、その深緑のトンネルは清々しく、却って暑さしのぎになっ
たようである。秋や春は素晴らしいだろうなぁと期待させる若丹尾根の深緑でありました。

尚、用意のお茶は2.5L。消費は2L+缶ビール0.35Lで計2.35Lでした。



【タイムチャート】
7:10自宅発
9:15〜9:22五波峠(Ca600m)駐車地
9:40最初のピーク
9:55第二のピーク
10:09〜10:16八ヶ峰自然休養村コース出合
10:25〜10:26山頂手前のピーク
10:37〜12:16八ヶ峰(800.1m 二等三角点)
12:33〜12:41八ヶ峰自然休養村コース出合
13:10〜13:15最初のピーク
13:25五波峠(Ca600m)駐車地



八ヶ峰のデータ
【所在地】京都府北桑田郡美山町
【標高】800.1m(二等三角点)
【備考】 丹波と若狭を遮る若丹国境尾根に属する名山です。山頂
に立てば、旧国名でいう8ヶ国が望めるというのが名の
由来です。西の肩の知井坂、東の肩の五波峠とも、所謂
『若狭越え』の道でした。交通の便があまり良くなく、
車でアクセスが主となります。
【参考】エアリアマップ『京都北山2』



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