青根ヶ峰〜吉野でお手軽森林浴

平成14年 8月12日(月)
【天候】 晴れたり曇ったり
【同行】 単独
青根ヶ峰へ向かう吉野古道にある女人結界


 立秋を過ぎて、朝夕吹く風は心なしか秋めいてきたような。夜は窓辺からエンマコオロ
ギの声も聞こえ始めた。だが、日中はまだまだ容赦ない酷残暑。従って、今日もあんまり
高低差のない山歩きが狙い目。本日の舞台は吉野山の最高峰青根ヶ峰。

 青根ヶ峰は一昨年、沢沿いに登れば涼しかろうと踏んで、蜻蛉の滝から登ったのだが、
林道工事の為に登山口が分からず、右往左往してようやく見つけたものの、アスファルト
の熱気にしてやられ、結局途中リタイアの憂き目にあった因縁の山。本来ならば同じルー
トでリベンジと行きたい所だが、生来のずぼら、と病み上がり。車で上がっちゃえという
わけで奥の千本近くの金峰神社からのスタートである。

 家を出たのが8時過ぎ。そうだ盆前の月曜。帰省ラッシュが始まっているのだった。こ
んな所で渋滞?と思われるほどあちこちで小渋滞に巻き込まれながら、やっと吉野山の麓。
県道を吉野神宮から吉野の市街へ入る。

 小学校の林間学校以来だから何十年かぶりの吉野の街である。懐かしさと云うよりも、
もう記憶にはほとんどない。その古い町並みの間を、離合も困難な狭い道が続く。金峰山
寺蔵王堂を抜けて、中の千本、上の千本と進むが奥の千本はそこから遠かった。途中、バ
イクの小父さんに聞くと、
「あと4km位あるかなあ。」
「むむ。」

 くねくねと植林帯の中、車を走らせると、大きな案内地図が見えてきて、奥の千本のバ
ス停が現れた。それが金峯神社の鳥居前。バス停付近はバスの回転場所とのことなので、
50m程先、数台が駐車できる小広場に駐車する。

 金峯神社の鳥居の横には修行門の表示。
「そうか。大峰奥駈道の逆峰はここから始まるのだな」
金峯神社は吉野の地主神の金山彦を祭神とする延喜式内社。元々金峰山は大峰山の総称で
あり、大峰修験道の隆盛に伴って古来尊崇を受けていたのであろう。が今はひっそりとし
ている。結構な急坂を登ると境内。中央の高台に本殿、右に山上ヶ岳にある茶屋と同じ造
りの古い大きな休憩所。真ん中に役行者像。左手が妙に開けていると思ったら、元は社務
所があって最近、全焼したらしい。そういえば周囲の杉木立も焦げている。風呂場の跡だ
けがタイルが残っていることで分かるのみ。
『み吉野の山の白雪ふみわけて 入りにし人のおとづれもせぬ』壬生忠岑

金峯神社本殿。左の坂下に義経隠れ塔がある

 「義経隠れ塔直ぐ下」の表示があったので坂道を降ると杉木立の中に建物があった。内
陣に入るには上の社務所に申し出るとのことだが、社務所がないのにどうするんだろう?
くだらない疑問が湧く。本来ここは奧駈修行第一番目の修行場で、中に入り『吉野なる深
山の奧のかくれ塔 本来空のすみかなりけり』と唱え、真っ暗な塔内を巡るのだとか。そ
れよりも、追っ手に追われた義経がこの塔に隠れた伝説の方が人口に膾炙している。

 引き返して本殿右の石畳の道に入る。当初、百貝岳へも足を伸ばす積もりであったが、
到着に手間取り、もう11時半過ぎ。鳳閣寺まで4kmとの表示に、単独行の気楽さ、百
貝岳はあっさり諦め、まず西行庵へ向かうことにする。まもなく分岐。直進は鳳閣寺、左
の山道は山上が岳への道。どちらを採っても西行庵へは行けるようだが、ここは直進を選
ぶ。桧林の中を更に進むとまたまた分岐。西行庵へは左の下る山道。

 かなりの傾斜の山腹沿いに手入れされた山道がつけられている。やがて道はどんどん谷
へ下っていき、ヤマザクラの木々の間から遙か下に苔清水が見えてくる。苔清水とは良く
名付けたもので、苔むした岩の間からちょろちょろと水が流れており、竹の筧がかけられ
ている。少し口に含むと甘い味がした。
『とくとくと落つる岩間の苔清水 汲みほすほどもなき住居かな』
『露とくとく 心みに浮世 すすがばや』芭蕉

 西行庵はそこから直ぐ。一寸した広場の中に建つ三畳間ほどの東屋で、檜皮葺きの屋根
にはアセビ、桧等の幼木が生えている。それを支える四隅の柱は曲がりくねった自然木。
その板の間に西行の木像が端座している。西行。本名佐藤義清。元北面の武士で、櫻をこ
よなく愛した歌人。

西行庵の内部に安置された西行像

 この辺り一帯を奥の千本というらしい。櫻とモミジ、モミかカヤらしい大木の生えた台
地である。伐採した木材で椅子とテーブルが設えてあり、丁度昼食時なのでここで大休止
とした。

 食事で一息ついた後は苔清水前から今度は右の山道へ入る。まもなく広場。よく手入れ
された杉桧の木立の中を抜けると宝塔院跡の分岐。東屋が建つ。案内板によるとここは理
源大師の修行場とのことで、今、蔵王堂にある蔵王権現像はここにあったのだという。

 山上ヶ岳方面へ向かう。もうここは奥駈道。杉桧林から雑木に変わって木の梯子のある
荒地に出ると前方遙かに四寸岩山が顔を出し、女人結界を示す寛政年間の古い石標とお地
蔵さんがある。そのお地蔵さんの光背には、「左 せいめいがたき」と彫られているとこ
ろを見ると、やはり大滝からの道は古い参道だったらしい。右手に尾根道を外す新しい奥
駈道なのか林道なのかがつけられているが、路肩が荒れて痛々しい。道標は左へは青根ヶ
峰を経て山上ヶ岳(吉野古道)とある。勿論こちら。

 近畿自然歩道に指定されているだけによく手入れされている。丸太で補強された階段は
少しきついが、それも暫く。すぐに狭い青根ヶ峰の山頂に行き着く。

 山頂真ん中には南向きの綺麗な三等三角点と石のベンチ。幾つかの山名プレートが懸か
る。眺望は木立に阻まれ思うに任せないが。それでも高見山、白屋岳が眺められる。北東
側にも踏み跡があったが、林道から上がってくる道らしく、蜻蛉の滝から車道を横切って
ここへ上がってくるのだろう。山頂の直ぐ下を通る吉野古道はなかなか風情がありそうな
道だ。秋にでも又来てみたい。

 水分を補給して、元来た道を戻る。理源大師の修行地の分岐から鳳閣寺の分岐は直ぐ。
金峯神社からは参道を下らずに、義経隠れ塔から車道へ出る事にする。途中に木製の展望
台がある。

 300m程歩けば駐車地の広場で、車にザックを置き茶だけを持って今度は高城山へ向
かう。

 修行門の前は三叉路になっていて、北に向かう車道を約600m進めば右手に石畳の坂
道が見えてくる。短い急坂を喘ぐと頂上には立派な展望所がある。高城山は別名「つつじ
ヶ城」。以前はここが吉野山の最高峰ともされていたらしい。また南北朝時代、護良親王
が立て籠もった城跡とも云う。それだけにここからの展望は特筆物。北から西方向が大パ
ノラマである。金剛、葛城連山から二上山。生駒山まで。北には音羽山、熊が岳などの音
羽山塊から竜門岳。高取山に額井岳、東に目を転ずれば高見山の三角錐。白屋岳などなど。
その真ん中を中央構造線が横切っているとか。

高城山から望む高見山の尖峰


 暫し、景色を愛でて汗が引くのを待った後、車道を戻る。車も通らず静かなもの。慌て
て飛び立つバッタを追いかけたりしながら金峯神社横の駐車地へ戻る。数十年ぶりの吉野
山。お手軽森林浴の半日でした。



【タイムチャート】
8:20自宅発
11:15〜11:25金峯神社横の駐車地
11:26金峯神社修行門
11:34〜11:42金峯神社
11:46山上が岳・鳳閣寺分岐
11:50西行庵・鳳閣寺分岐
11:54苔清水
11:56〜12:20西行庵(昼食)
12:30宝塔院跡
12:39女人結界
12:45〜12:55青根ヶ峰(857.9m 三等三角点)
13:06宝塔院跡
13:08山上が岳・鳳閣寺分岐
13:12金峯神社
13:20〜13:23駐車地
13:35〜13:46高城山(702m)
13:56駐車地



青根ヶ峰のデータ
酷暑にリタイア、青根ヶ峰』をご覧下さい。
【参考】エアリアマップ『大峰山脈』



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