七面山〜大峰の秋に酔う

平成13年10月21日(日)
天候:曇り
同行:別掲
1397m標高点ピーク付近よりガスに煙る槍の尾を望む


 アルプス等、高い山では早や紅葉が真っ盛りという。先週、大峰や台高を訪れた低徘の
メンバからも黄葉や紅葉の便りが。それにつられて折良く開催された大峰ミニオフ第二弾
に参加、大峰の奥懐の秋を堪能してきました。

今回のオフの舞台は七面山。大峰最高峰の八経ヶ岳の南、主脈から西に伸びた支稜に位置
し、アプローチが悪い為、未だ人擦れしておらず自然林が残る秘境の山だとか。

早朝5時20分、まだ暗い。自宅近くで水谷さんに拾って頂いて、集合地の奈良県大塔村
役場に向かう。今迄はせいぜい早くて6時の出発だったから、それを30分以上も上回る
のは小生にとっては記録的。仕事じゃこうは行かないなぁと苦笑。(^^;)
 
 奈良県に入った頃、ようやく明るくなってきた。早朝で道路は空いていて、予想外に早
く集合時間の1時間以上も前の7時20分には集合地の大塔村役場に到着した。当然まだ
誰もいない。近くにある水車や以前、泳ぎに来た記憶のある天の川を眺めたりして時間を
つぶす。気がかりは空模様だが、雲に切れ間があり明るさが残っている。何とかもってく
れそうな感じだ。

 やがて、皆さんが集合、最後に大加茂さんの車が到着し、定刻10分前の8時20分、
現地に向かって出発。R168を更に南下して「夢の湯」という大きな温泉施設を右に、
宇井橋手前を左折し、舟ノ川沿いに東へ向かう。深い渓谷沿いに曲がりくねる狭い道。そ
んな中、山肌に張り付くように中井傍示、惣谷、篠原と小集落が散在する。寺もあり古い
集落であることが分かる。昔は山仕事と川で暮らしを立てていたのであろうが、今は過疎
の為か、学校も廃校のような雰囲気であった。

 県道は篠原の集落まで。ここから林道に変わる。道の下に篠原滝が優美な姿を見せる頃
になると、舗装も途切れ石混じりの道となってますます狭くなる。対象的に左手の岩を噛
む七面谷の流れは速く、青く澄んで美しい。

 村役場から1時間を要して、ようやく「火の用心」の赤い幕が架けられた王子製紙の私
有林道始点前の広場。ここに辿り着くまで、舟の川の深い渓谷に驚嘆するわ、鹿3頭を間
近に目撃するわで、あらためて大峰の山深しを実感する。

 一休みしていると軽四輪。地元篠原のおじさん、救助隊の一員でもあるそうで、休日に
は登山口の見回りをしているのだという。「気をつけて」と言葉を残し、先に林道を登っ
ていった。

 ここで準備を整えた後、メンバ全員、水谷さんの四駆に乗り換え、コンクリート舗装の
私設林道を進むことにする。ところがすぐに舗装は途切れて地道となり、しかも急傾斜の
ヘアピンの連続。ガードレールは無し。山側から滝が流れ落ちる所もあって、四駆でない
と些か苦しい道である。

 20分ほど登って一気に高度を稼ぐと林道沿いに7、8台、車がとめられる場所に出る。
ここが登山口。岩に赤ペンキで登山口と書かれてあり、大塔村の標識も立っていて、その
左に登山道が雑木の中に吸い込まれている。が驚いたことに先行の車が6台もある。隠れ
た人気の山たる所以か。幸い時々薄日も射してくるから天候の心配もあまりなさそうだ。
全員、準備万端、10時前、登山口に入る。

王子製紙の私設林道の途中にある七面山登山口

 最初は「なかなかいい雰囲気だなぁ」と軽口を叩いていたが、雑木林を抜けると植林帯
となり、山腹を縫う急傾斜となる。予め地形図で500m程度の直線距離で300mも高
度を稼がねばならないことは知ってはいたものの、やはりエンジンがかかる前の急登は堪
える。しかもジグザグだった道が直登に変わる。足元のハグマの一種らしい小さな白い花
が慰め。「坂と云っても限り有り、一歩登りゃそれだけ頂きに近づくわい」と我慢して、
一気に突き上げていくと、上方の植林の隙間から雑木が綺麗な七面尾の稜線が見えて来た。

 稜線直下で一息つき、のりかさんからミカンの差し入れ。アルバイトして乾いた喉に程
良い酸味は美味であった。

 刈られたササの間を登って大きなブナの木の横から左に折れ、ようやく七面尾の稜線。
紀州わらじ会の道標がある。ふーっと一息。

七面尾の稜線上は早や紅葉が始まっていました

 登山口付近ではまだ青かった木々の葉が、ここではもう赤や黄に色づき秋たけなわ。ヒ
メシャラの大木もあって素晴らしい雰囲気だ。しかし、道はやや歩き難い。随所に木の根
が岩の上にわだかまり、落ち葉その下に隠れた浮き石と気を使う。苔むした倒木も多い。
メンバ全員、一度は頭をうったか、尻餅をついたかしたのでは?かく言う小生も足を少し
滑らせて掌にかすり傷。(^^;)

 顔を上げると左手、北の方角が時折開けて、八経ヶ岳から明星ヶ岳への稜線が顔を出す。
しかし頂上付近は厚いガスに覆われている。眼下遙かには七面谷の上流、地獄谷の核心部
の深い切れ込んだ涸れ沢が白い。
 
 1397mピークに出ると、今度は右に槍の尾(点名『七面山』)が岩峰を突き上げて
いるのが見えた。が、これも直ぐにガスのベールの中。

 ツクシシャクナゲがあちこちにあるなと思ったら大群生が現れた。しかも太さ10pを
越えるものもあるから驚き。小さな実生も多くあって、世代交代も大丈夫そう。こりゃ5
月は西方浄土のお花畑ではないかなぁ。その頃もう一度来たいなぁ、の思いが募る。

シャクナゲが茂る中を往く。春はさぞかしピンク
に染まることでしょう

 木に掴まり、岩に手をついて痩せ尾根を抜け、もうすぐ土に還りそうな朽ちた倒木とヒ
メザサの間を伝う。その間2、3人の下山者とすれ違う。足元には立派なキツネノチャブ
クロ、イワカガミ、ミヤマシキミの赤い実。周囲にはナナカマド、イタヤメイゲツ、トウ
ヒ、ブナ。やっぱりいいなぁ。

 七面山西峰の直下はちょっとした小広い鞍部になっていて、一面の笹原にブナと思しき
白い幹の木は葉を落とし、自然の造形を誇らしげに見せている。大台ヶ原の正木ヶ原にも
似た雰囲気で、しかも霧が流れ、さながら幽玄の世界。その中に2つ、鹿のヌタ場がある。
足跡も鮮明に残り、獣臭い。と、その横の木の幹にツキノワグマと思しき爪痕発見。高さ
50p位であったので小熊だろうか?いやぁ、またまた大峰の奥深さを実感した次第。

ツキノワグマのものらしい爪の跡(西峰下のヌタ場
横で)単独行だったら背筋がゾーッと..。

ガスの中、西峰への最後の急登。まるで
「もののけ姫」の世界だ

 西峰へはヒメザサの中を最後の一頑張りの登り。行き着いた山頂は芝生状の丈の低い草
の生えた、東西に長い7,8人が憩える位の狭いもの。紀州わらじ会の標識やその他のプ
レートが2、3あるだけの清浄な感じの頂である。南側は絶壁のはずだが、樹林でしかと
は分からなかった。小休止して東峰へ向かうプランもあったが、12時前だし、気分もい
い場所なのでここで昼食ということに決定。

座っているとやや寒い。昼食後、直ぐに東峰に向かう事に。ピストンなのでここにザック
をデポする人、いや矢っ張りと担ぐ人。様々で面白い。

 西峰から東峰迄は直線距離で300m位。本来ならその姿が認められるはずだが、ガス
が濃くなり全く見えない。地形図を見た限りでは大した事はないと思っていたが、あには
からんや細かいアップダウンの連続。しかも岩混じりの痩せ尾根である。途中、「七面山
」と標識付きの偽ピークの岩峰まである始末。巻き道があったのだが、岩峰の方へ引き寄
せられ、時間を取られる。GPSとマップポインタで現在地を確認し、更に尾根をトレー
スしていくと、15分程で東峰へ到着した。

葉を落とした木々と霧が幽玄の世界を醸し出す
(東峰直下にて)

 山頂は樹林に囲まれ、あまり視界は良く無さそうだが、南と西側は大クラと呼ばれる高
低差400mの絶壁のはず。東南奥に大蛇クラに似た突起があったので先端まで行き、覗
いてみるが、切れ落ちている感じはしたが、ガスと木の茂りで判然とはしなかった。ここ
からは晴れていれば釈迦ヶ岳が望めるそうだ。でも残念ながら今日は無理。雨じゃないだ
け良しとせねば...。(^^;)

東峰の山頂南側の「大クラ」と呼ばれる岩壁の
突端から覗くもガスで下は見えず

 また地形図にある仏生ヶ岳への尾根筋の点線路も薄い踏み跡で、相当な険しさのようで
あった。

 再び、西峰へとって返す。当初の大加茂さんの計画では、あけぼの平から「槍の尾」へ
も廻る予定だったのだが、目当ての展望が得られそうにないので、次回の石楠花オフにと
っておこうと衆議一決。このまま下山に変更。名残を惜しみつつ、西峰を後にする。

霧が晴れた後の、大台ヶ原の雰囲気に似た雑木と
ヒメザサに覆われた西峰直下の清々しい斜面

 しかしマーフィーの法則ではないけれど、物事というのは得てしてこういうものだ。大
分戻ってきた頃である。少しガスが晴れてきたではないか。槍の尾も姿を現し、七面尾の
分岐では西の山々も青灰色に見える。残念。

七面尾の稜線北側のブナの黄葉

 綺麗な黄色に色づいたブナ林を抜け、七面尾の分岐で一息入れて最後の急降下。降るに
従い、小さかった沢音が次第に大きくなってくる。下りながら、結構きつい傾斜だったん
だと一人頷く。

 突然、ピーッと鹿の声が響き渡った。結構近い。こちらも擬音で応酬。鹿も驚いたのか、
また警戒音。これを何度か繰り返す内に、呆れたのか次第に遠ざかっていった。

 登山口に戻ってくると、もう水谷さんの車のみになっている。みんな引き上げたようだ。
メンバ全員、無事に戻って来れたのを確認して水谷さんの車に再び乗り込む。

 今日の余韻に浸りながら水谷さんの運転で林道を降っている時である。前方に黒い物が
居る。小生は一瞬、犬かと思ったが、よく見ると立派な角。1m以上はある雄のカモシカ
である。これには一同感激。写真に撮りたかったが一瞬の出来事で、アッという間に険阻
な山中へ消えてしまった。

 この後、王子製紙林道入口前でデポしておいた2台の車を合わせ、もう、やや薄暗くな
った頃、大塔村役場に戻り、再会を約し解散となった。

 水谷さんの車に便乗し帰途につく。少し遅くなったので、「夢の湯」入湯は中止。そこ
ここに店が出ている名産の柿を購入して土産とした。

 まだまだ手つかずの自然が残っている大峰の最奥部。その自然一杯の秋に酔った一日。
ナイフリッジに岩登り。シャクナゲ、笹原、鹿にカモシカ。その充実ぶりは早朝に起きた
甲斐があったというもの。いやそれ以上の価値がありました。プランニングされた大加茂
さん。車に便乗させて頂いた水谷さん。そして、楽しい思い出を共有できたメンバの皆さ
ん、有り難うございました。



■同行 大加茂さん、杉崎さん、shigaさん、のりかさん、水谷さん、みーとさん、
    萌木さん[五十音順]

【タイムチャート】
 5:30自宅発
 7:10〜8:20大塔村役場(集合地)
 9:15〜9:25王子製紙私有林道入口前
 9:45〜9:55登山口(Ca1070m)
10:25〜10:35尾根手前地点(休憩)
10:511397mピーク付近
11:44〜11:45西峰直下の笹原
11:55〜12:30西峰(1619m)
12:55〜13:06東峰(1624m)
13:20〜12:35西峰
14:45〜14:51七面尾分岐
15:25〜15:30登山口
15:52王子製紙私有林道入口前



七面山のデータ
【所在地】 奈良県吉野郡大塔村・吉野郡十津川村
【標高】  1624m(東峰)1619m(西峰)
      1596.4m(槍ノ尾 三等三角点)
【備考】  八経ヶ岳の南、大峰山脈主稜から西に派生した支稜上に
      あります。西峰、東峰、槍ノ尾等の総称で、三角点は槍
      ノ尾にあります。尾根上は雑木に覆われ、特にツクシシ
      ャクナゲの大群落があります。なお、南面は大クラとい
      われる大岩壁です。
      交通の便が悪く、R168から20q以上、舟ノ川沿い
      に遡行する必要があり、車以外のアプローチは困難です。
【参考】  2.5万図『釈迦ヶ岳』



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