翠嵐の奧駈道に気分は行者〜大天井ヶ岳

平成13年 6月 2日(土)
天候: 晴れ
同行: かねちゃん、
    もぐもぐさん(五十音順)
山上ヶ岳への奥駈道、蛇腹付近の展望岩から大天井ヶ岳



 最近は北摂、丹波等の近場が多く、低徘のオフで遠出するにしても西の播磨近辺が多か
ったのだが、やはり年に一度は訪れたい大峰。そこへMさんが行きたい山の一つに大天井
ヶ岳を挙げておられるのをMLで知り、これは同伴をお願いせずばなるまいと、我が儘を
聞いて頂いて、久しぶりに大峰を歩く機会が得られた。天候と相まって期待に違わぬ素晴
らしい山行となり、充実した一日となったが、以下はその備忘録。

 大天井ヶ岳は洞川の北東に聳える鋭鋒で、一昨年、山上ヶ岳から見た姿が忘れられず、
機会があれば登ってみたいとかねがね思っていた山。歩くコースは落ち合ってから決めよ
うという事だったのだが、最終的には毛又谷林道を五番関トンネル迄上がり、五番関から
大天井ヶ岳をピストン。更に奧駈道を山上ヶ岳へ向かい、洞辻茶屋から清浄大橋へ戻って
来るという趣向に落ち着く。

 午前6時過ぎ、自宅発。ラジオ体操を車で聞くと、何だかさあ行くぞという気分になる
から不思議。R310で金剛トンネルを抜けると、大峰山系が波打っている。左端に見え
る三角錐の山が大天井ヶ岳だろうか?期待が膨らむ。

 順調に午前8時半には洞川温泉の駐車場に到着。車を降りてトイレへ行きかけると、向
こうからMさんの笑顔。Kさんが急遽参加でこちらへ向かっているという。段ヶ峰オフで、
大峰を歩きたいと云われていたから、もしやとは思っていたのだが。朗報。

 Kさんの到着までまだ間があるので、Mさんと連れだって名水豆腐の予約をすべく洞川
の街を歩く。大峰へ登る人々や観光バスで、いつもは静かな街がやや騒々しい。

 戻ってくると、折良くKさんの車が滑り込んできた。幸先良し。

 三人でコースを先の如く粗々決めて出発、洞川の街並みを抜けて、まず母公堂前で2台
をデポ。更に小生の車で毛又橋から林道に入り、五番関トンネルの洞川口に車を止める。

林道のものとは思えぬほど立派な五番関トンネル。この右
側に東屋と五番関への登路がある。左は愛車

 林道とは思えない立派なトンネル。その前は一寸した広場になっていて、東屋やルート
図等が完備されている。五番関へはトンネル右の小さな涸れ沢沿いに登るようだ。支度を
整えて早速取り付く。しかし、植林の中、いきなりの急登である。すぐに息が荒くなる。
やがて頭大の石が転がる沢自体が道となり、ロープにすがる険しい部分もあってますます
息は上がる。道がジグザグを切るようになって、ようやく落ち着き、下を見る余裕も出る。
おーっ。結構急だったんだぁ。

 稜線上の小さな鞍部が五番関。錫杖、役の行者の祠、そして女人結界門が立つ。大天井
ヶ岳へはここから北方向に向かう二つの道の内、左側の道を採る。

 ここものっけから急な登り。おさまった息が又上がり出す。MさんもKさんも名うての
猛者。ややもすれば小生は遅れ気味。汗を拭くのにかこつけて息を整える。(^^);
 
 大きな岩が現れる頃には傾斜もやや緩んで、周囲は雰囲気のいい雑木の林になる。岩の
周囲は昔、建物があったのではと思えるように平坦で、「尼崎念仏組」と刻まれた石碑や
梵字の書かれた札がある。小休止。噴き出した汗も空気がカラッとしているのですぐに引
いてしまう。山行には最高の日和。

 登山道は概して明瞭。天川村と川上村の村界尾根なので赤プラ杭もあり、しかも煩いほ
どテープもある。「北摂の山より歩き易いね」と一行。しかし山の大きさが違う。生える
木々はどれも大きく、ブナやミズナラは流石、一抱えもある。野鳥も豊富で、カッコウ、
ツツドリ、シジュウカラ、ホトトギス等々の鳴き声は分かったのだが、他はどうも...。

 尾根が細くなってくる。木の根の浮き出た部分や岩を巻き、Ca1400mのピークを越
えるとほぼ平坦となり、前方に頂上と思しき姿。百丁茶屋への奧駈道を右に見送ればあっ
けなく頂上に飛び出した。

大天井ヶ岳の山頂風景。遠くに霞むは金剛・葛城の山並み

 賑やかにプレートが掛けられた狭い山頂は、枯れササと雑木で360度の展望とはいか
ないが、北側のみは大きく開けていい眺め。金剛・葛城山塊に五条市街。遠く大和平野。
霞みながらも生駒山がかろうじて。手前の山峡の集落は黒滝村赤滝だろうか。右に四寸岩
山への山並み。薄く竜門岳も眺められる。

 生駒から来られたというご夫婦。これから西へ岩屋峰方面へ向かうそうな。こちらも自
己紹介、しっかり低徘派のPRをしておく。
(註)山頂からは岩屋峰へのプレートとテープのある踏み跡と、他に荷揚げ用のモノレー
   ルが設置されている踏み跡があるが、どこへ繋がっているのか確認していません。
   百丁茶屋へは少し南へ戻って山頂の東を巻く道を採ります)

大天井ヶ岳山頂から四寸岩山。奧は音羽山塊

 あっという間に小一時間が過ぎ、往路を引き返すことにする。今度は下りなので周囲を
見渡す余裕がある。(^^); Kさんがサラサドウダンを見つける。一つ見つかるとあちら
こちらに。京都の飴を彷彿とさせる可憐な花である。

 木の根道でおばさんハイカー数人組とすれ違う。これから吉野山まで行くのだという。
ここからだと20q近くはあろうか。最近はおばさんが特に元気。そのエネルギーにあや
かりたいものです。(^^)ゝ

 岩が張り出し、茂みの中のテラスと云った感じの場所がある。3人代わる代わる。新緑
の中に山上ヶ岳から小稲村を挟んで、稲村ヶ岳、大日山の尖峰。奥の方には弥山が控える。
「んっ?、山上ヶ岳、あんなとこ?結構距離あるなあ。歩き堪えありそうだなぁ」。いさ
さかシャリバテの小生、ちと弱気。

 下りは早く40分程で五番関に戻る。これから奥駈道を歩くにしても中途半端なので、
少々早いがここでランチタイムと衆議一決。小生はいつものように助六寿司とカップ麺で
十年一日進歩無し。ここらでバリエーション変えたいのだが..。

 虫を追いながらの食事は、小学生時代を思い出すなぁ。その間にも百丁茶屋方面から御
夫婦がやってこられ、女人結界門から残念そうにトンネル方向へ降りて行かれた。この女
人結界門、ちょっと理不尽な感じもするが、信仰上の問題でもあり、一筋縄では行かない
問題を孕んでいる。まだまだ紆余曲折がありそうだ。

 さて、五番関から山上ヶ岳へは、奥駈道と古道の2つのルートがある。ここは古道の方
が面白そうだとこっちを選択。女人結界門をくぐって歩き始める。

 ここものっけから急登。ザックは軽くなったが、肝腎の体が重くなっている。えっちら
おっちらの登り。だが雑木に囲まれた清々しい雰囲気はしんどさを補って余りあり。落ち
葉の堆積でフカフカの道はスポンジのようで、膝への負担も軽そう。が、今日は誰も歩い
ていないと見えてクモの巣が張っていると先頭のMさん。

 小さな狭いピークに登り着く。bS0と記した村界杭があるのみで、雑木が茂って展望
はないが、大天井ヶ岳の前山が垣間見えて雰囲気良し。後で地図を見て小天井岳らしいこ
とを知る。

 ここからやや降ると杉林となって、左からの奥駈道と合流。まもなく祠が見えてきた。
靡きの一つだろう、百五十五丁石の立つ「鍋かつぎ行者堂」。ほんに柱に鍋がぶら下げて
ある。

 お堂に書かれた云われに依れば、役の行者の修行を妨げようと大蛇が現れたので、行者
は鍋を被って難を逃れ、法力で大蛇を退治した。その腹が飛んだ所が「蛇腹」だそうだ。
失礼して祠の扉を開けると、本当に鍋を被った行者が鎮座ましましていた。

 お堂を過ぎると左右は緑滴る雑木林。ブナ、ツガの大木に混じって、咲き遅れたツツジ、
サラサドウダン、ムシカリの花びら。翠嵐に気分はにわか行者である。頭に兜金、白い装
束の行者の一行とすれ違う。「今日は」ではなくて「ようお参り」。遠くからは法螺貝の
音。ああ、大峰に来ているのだと実感する瞬間である。

 ところで、この行者一行の中にはビニール袋を持つ方がいたが、ゴミを拾いながら歩い
ておられたようだ。そういえばゴミがほとんど無かったなぁ。我々ハイカーも汚さぬよう
に心せねば...。

 素晴らしい新緑のプロムナードが続く。いつの間にか薄雲がとれて青空が広がり、ます
ます緑が映える。左に展開する斜面を眺めて、Mさんが台高の明神岳から桧塚付近に似て
いるとおっしゃる。Kさんは「至福の時とはこの時だなぁ」と呟く。一同「もう帰りたく
ないねぇ」「ここにずっと居たいなぁ」の連発である。

 本当にこれが標高1400mはあろうかという稜線の道なの?と思える遊歩道並の奥駈
道。木陰からひょっこりとベビーカーを押した若奥さんが出てきそうな雰囲気もあるが、
何気なく足下を見るとマムシグサと共に、二少年遭難碑があるという現実。昭和18年2
月、吹雪に巻かれて落命したとのこと。山の厳しさをあらためて知る。

フカフカの落ち葉と目の覚める様な新緑の落葉樹林に
木漏れ日。幹には苔が
滴る緑に見入るMさん「あぁ、ずーっとこのままで居たい」

 今宿茶屋跡は、それを示す板が木に掛かるのみ。官林云々と刻まれた明治時代の物と思
しき石標。ササ枯れの中に盆栽と見まごうイタヤメイゲツの実生。

 東が開けると、波打つ重畳とした青い山々。が、如何せん土地勘がない。一番高いのが
大台ヶ原でその手前は辻堂山?左は白髭岳だろうかと推定するだけである。

 突然、急登の斜面が現れた。ここが蛇腹らしい。ロープが垂らしてあるが、ボタリング
の石壁のように足がかりの岩が飛び出していてそれ程のことはない。5m程よじ登った先
の岩がこれまた素晴らしい景観。下が切れ落ちているので少々怖いが、今し方辿ってきた
大天井ヶ岳からの稜線、四寸岩山も一望。遙か下には五番関の林道。大峰の山深さが実感
できる。

 奈良地方気象台の設置した雨量観測小屋を右に見る頃、奥駈道は畦道然となり、不動尊
の石像や先達の石碑が林立し出すと、洞辻茶屋の屋根が目に入ってくる。前方に山上ヶ岳
の峨々たる岩壁。「鐘掛岩」や「西の覗き」は白装束の行者が鈴なり。「親孝行するか」、
「正直になるか」などとやっているのだろうなぁ。一昨年ひょっと覗いてみたのを思い出
した。ブルブルッ。

 洞辻茶屋は盛況。沢山の参拝客。ビール、うどんもある。行者堂には魔除けのシャクナ
ゲが手向けてある。向こう側では、先達が吹き鳴らす法螺貝と共に般若心経の唱和が始ま
った。山上の繁華街という感じだが、茶屋の板壁には天川村山岳救助隊の訓練告知の張り
紙もあって、ここでも山深さを感じた次第。

 記念写真を撮ったり、撮ってもらったりなどして、小休止の後、下山にかかる。

 林道のような広く良く踏まれた道。小1時間の後、大きく左に曲がれば「お助け水」の
前。床几が備えてあって、参拝客がたむろして声高に喋ている。あちこちに煙草の吸い殻。
見苦しい事この上なし。山自体が寺の境内であること。故に登山口毎に女人結界門がある
のではなかろうか。しかも水に溶けたニコチンやタールは下流に棲む生物たちに確実に害
を与えるはずなのに。

 植林の中がほとんどの単調な道だが、所々、先程歩いてきた稜線が毛又谷を隔てて見渡
せる所がある。歩いてきた余韻に浸れる瞬間だ。それらをアクセントにして、会話を楽し
みながらなら、この単調さも紛れる。一本松茶屋、一の世茶屋(閉鎖)を過ぎて、1時間
少々で無事、清浄大橋にたどり着いた。

 ここからはぶらぶらモード。山上が岳の岩壁を仰いだり、路傍の草花に関心を注いだり。
エンレイソウ、ホウチャクソウ、ラショウモンカズラが可憐な花を開いていた。

 車を回収して、Kさんは先に洞川温泉へ。小生とMさんは予約しておいた豆腐を受け取
りに。小生はついでにシャクナゲの鉢も購入。予期せぬ出費だ。(^^);

 再び洞川温泉前の駐車場でKさんと合流。温泉で疲れと汗を流す。

 風呂上がり、微風に吹かれながらお開きとした。即決のオフもなかなか良いもの。また
やろうと衆議一決。次が楽しみ。

 暫し共有した至福の時。Mさん、Kさん有り難うございました。



【タイムチャート】
6:10自宅発
8:25〜8:55村営洞川駐車場(Ca740m)」
9:05〜9:10母公堂前駐車場
9:20〜9:25五番関トンネル横
9:36〜9:38五番関(1211m)
9:52〜9:54大岩横(小休止)
10:25〜10:50大天井ヶ岳(1438.7m 三等三角点)
11:30〜12:05五番関(昼食)
12:20小天井岳(Ca1340m)
12:36〜12:42鍋かつぎ行者堂
13:10今宿茶屋跡
14:04〜14:16洞辻茶屋
14:35〜14:40お助け水
15:10一本松茶屋
15:30一ノ世茶屋
15:40清浄大橋
16:15母公堂前駐車場



大天井ヶ岳のデータ
【所在地】 奈良県吉野郡天川村
【標高】  1438.7m(三等三角点)
【備考】  洞川の北東、大峰山脈主稜上にあり、山上ヶ岳の北に位
      置する独立峰です。山上ヶ岳から見るピラミダルな姿は
      登高意欲をそそります。昔は奧駈道の難所でしたが、現
      在の道は東の山腹を巻いています。
      アプローチは林道毛又谷線を五番関トンネルまで。東屋
      と駐車スペースがあります。
【参考】  エアリアマップ『大峰山脈』



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