和泉葛城山へブナに会いに行く

平成13年 5月 4日(金)
天候: 晴れ
同行: 単独
玉冷泉付近に育成されていたブナの苗の柔らかい若葉


 ブナは「木」へんに「無」と書く。即ち、使い道がない木という意味である。真っ直ぐ
伸びないから良い木材にならない、水分が多く燃え難い等、要は人の生活に役立たないと
いうことである。その為、安易に伐採されてきた。しかし最近、その保水力、多様な生物
を育む能力、好漁場を作る原動力として、ブナが見直されている。そんなブナの群落が大
阪は和泉葛城山にある。かねて機会があれば会いに行きたいと思っていたの天然記念物の
ブナ。新緑の5月。この若葉の季節にようやくその機会が得られた。

 やや遅い出発になってしまった。高速道で時間短縮したいが渋滞に巻き込まれる懸念が
頭をもたげる。案の定、阪和道堺料金所手前で渋滞。しかし通り抜けには10分程で済む
という。それほどの遅れもなく目的地の蕎原(そぶら)に到着。「そぶら山荘」への案内
板に従って、府道と別れ、狭い道を進むと民家の壁に葛城山Bコース登山口の案内。しか
し駐車できるスペースもないので、とりあえず山荘方面へ向かう。

 杉檜林でやや暗い林道である。山荘を右手に見て更に進むとトイレがあって、10台程
度駐車できる空地が隣接していたので拝借することにした。(更に進んだ春日橋近辺にも
駐車スペースあり)

 支度を整えて東手川沿いに林道を奥へ。バーベキューを楽しむ家族らの車が路肩に沢山
止まっている。

 春日橋で左に本谷が分岐し、コンクリートの林道本谷線が延びている。これを遡行して
いく。左手の本谷は岩混じりで小瀑が連続している。カエデの木が多い。秋の紅葉は格別
であろう。

 暫く進むと林道が分岐していて、対岸を戻るように上がっていく。宿ノ谷の林道である。
尾根を大きく捲いて右にカーブすると、宿ノ谷の流れが近づいてくる。ここもナメ滝や小
さな連瀑が次々に現れ見飽きない。野鳥も多く、岩の窪みの溜まった水の中で餌を探す野
鳥もいる。と、左の淵の水面が大きく揺れた。見ると、パーマークも鮮やかな20cm近く
のアマゴだった。
 
 再び、林道分岐。左に直角に折れると左手にハシカケの滝、別名白糸の滝と呼ばれる5
m位の滝。沢沿いにはニリンソウが点々と白く雪を散らした様に咲いている。

 石がゴロゴロした道はすぐに通行止めのロープに遮られる。右手に近畿自然歩道の標識。
その指示に従って、ようやく山道らしくなった登山道は小さな沢を渡って対岸に移り、そ
の裏の山腹を登っていく。ヤマルリソウの小さな花やスミレの花が目立つ。この辺りから、
ブナの保護の為の作業道が現れるようになる。標高800m程度の低山にも関わらず、ブ
ナ林があるということで、大正12年、国の天然記念物に指定された。しかし当時は18
00本もあったブナも、現在ではその1/10だという。次代を担う若木も少なく、緑の
トラスト協会が、懸命に復活に取り組んでいるのだが、その成果はどうだろうか?

折れた幹の途中から枝を出して懸命に生きるブナ

 傾斜が緩んでクマザサが現れだした。チゴユリの群落も目に付く。前方に木製の桟道の
様な構造物。と目通り80p位の大きなブナが左手に。木製の構造物はそのブナの根を守
る為のものらしい。同様な構造物がもう一つ、進んだ先にあった。

山頂近くの雑木が茂る気持ちよい登山道

 蕎原Bコースと合流した先に葛城社の石の鳥居。享保年間の手水鉢。石段を数十段登り、
簡素な拝殿風の瓦屋根の建物をくぐった先が塔原、相川、河合、蕎原、木積の五ヶ荘の郷社
葛城神社であった。

 ある時、岸和田藩主の岡部公が葛城山中で白い鹿を射殺すと、俄に一天かき曇り、雷鳴
轟き、山が震撼したのだという。大いに驚いた岡部公が、八大竜王と葛城一言主を祀り、
鎮めたのが由来とのこと。雨乞いにまつわる伝説である。

 この葛城社の裏が八大竜王社。こちらにも石の祠があるが、葛城二十八宿の一つで「石
の宝殿」と呼ばれるそうだ。この付近が葛城山の山頂で858m。但し最高点ではない。
最高点は一等三角点の設置点で、未だ直線で東へ約800m離れていると手元のGPS。
が、ここまで来れば、三角点を踏みたいのが人情。尾根を縫う車道を東へ向かう。

茶店横から三角点のある峰を仰ぐ

 林道牛滝線の分岐を過ぎ、尚も進む。確か無線中継塔の近くだと聞いていたがその中継
塔が鷲峰山と同様に林立している。どれだろう。ここはGPS頼みだが、距離は縮まるも
のの、林道は和歌山県側へ下り勾配だ。こりゃいかんなあと左の山腹を探すと、急斜面の
ブッシュの中に踏み跡発見。しゃにむによじ登るとそこは管理道。これ幸いと進んでいく
と、今度は逆に距離が離れていく。戻ってみると杉桧の林の中に二筋の踏み跡。ここはG
PSの指す方を選択。タヌキだろうか溜め糞。危うく踏みそうになる。危なかった。(^^);

 暫くするとクマザサの中の良く踏まれた地道に合流。最後の登りに喘ぐと関電の無線中
継所横に目指す一等三角点があった。やれやれ。
関電の無線中継所横にあった一等三角点

 植林帯で展望もないので、三角点をデジカメに納めて早々に引き返す。管理道はやがて
NTTの管理道と合流している。何のことはない。最初からNTTの管理道を行けば苦労
はなかったのである。「関係者以外通行禁止」の標識と通行止の鎖に、気の弱い小生、気
圧されたばっかりに...。

 さて、山頂に戻る、茶店で缶ビールを350円で購入、先程の竜王社と葛城社の間にあ
る木のベンチが空いていたので陣取ってランチ。

 食事中、ふと見ると葛城社の玉垣の右後の角が斜めに切断されている。岸和田藩の岡部
氏が葛城社を創建した際に、角の一部が紀州藩の領内にはみ出したので、これを削らせた
のだという。御親藩の威光を物語るエピソードである。

 展望台があるので寄ってみる。霞みの為に絶景とは行かないが、南に龍門山や飯盛山。
那賀町だろうか紀ノ川が作った平野が見える。北は関西新空港が靄で淡く。晴れていれば
淡路島から四国方面も見えるそうだが。

 石段下から今度はBコース選択。リョウブやモチツツジなどに混じってブナが若葉を茂
らせている。全てブナには幹にナイロン紐が結わえてある。所々にはブナの苗も植えられ
保護されている。無事の成長を祈る。

 天保4年建立の玉冷泉の石標。導かれて行ってみたが、周囲の杉林が伐採された中の只
の水たまり風。コップが置かれているが、とても飲む気にはならない。ここにもブナの苗
が植えられ、元気に若葉を風に揺らせていた。

 気持ちいい道を降って、大阪みどりの百選の石碑のある所で、林道風の地道に出る。左
は行き止まりの様で、右に進むとすぐに舗装された本谷林道に合流。今度は左に曲がる。
山仕事のお爺さんがいたので、声をかけると、まっすぐ林道を降ると塔原(とのはら)で
大きく左にカーブした所に蕎原への山道があると親切に教えてくれる。礼を述べて先へ。

 単調な林道歩きだが、うらうらと暖かい陽射しの中、スミレ、モチツツジ等の花を眺め
ながら降っていく。なるほど大きく湾曲した林道のガードレールの切れ目に山道が分岐し
ている。プラスチック製の小さな標識は一寸見落としそう。が、すぐ先で再び林道と交差
する。今度は先程よりやや広い道で、鎖で通行止めがしてあった。

 江戸時代末期に造られた御神塔が現れる。ここが枇杷平らしい。御神塔に「竜王」とい
う文字が刻まれているようなので、ここが山頂の竜王社の参道だった事が良く分かる。枇
杷平は村人が雨乞い祈願を行った所と云うが、広場という感じはしなかった。

 更に降ると、ようやく前方が開けて、眼下にこぢんまりとした塔原の集落。結構山深い
中にあるもんだ。そしてすぐに塔原と蕎原の分岐。左の山道をとる。

蕎原・塔原分岐手前から山あいの塔原集落を眺める

 先程とはうって変わり、狭くなった道はやや険しさを増す。山腹を捲きながら雑木の中
を降っていけば、竹藪から杉桧の植林の中となり、沢に水も現れてくる。やがて、民家の
屋根が見えてきて、その民家の間の道から「そぶら山荘」への道に飛び出した。

 杉林の下に薄紫の花弁を広げているシャガを撮影したりして駐車地へ戻る。

 帰りに「ほの字の里」で汗を流そうと向かったが、連休のイベントで満員で60分待ち
とのこと。更に奥水間温泉も日祝日は入浴のみは不可。今日は風呂に縁のない一日だ。残
念ながら諦めて、塔原からR170に出、岸和田ICから帰途についた。

 一抱えもあるブナの淡い若葉に満足。ブナの苗が無事成長し、縄文の森が復活出来れば
と思うが、林道が発達した今日、アウトドアブームが却ってそれを阻害しているようで、
これは難問だなぁとつくづく思えた一日でした。



【タイムチャート】
8:50自宅発
10:40〜10:50蕎原山荘奥の広場(Ca290m)
10:55春日橋
11:01林道宿ノ谷線(蕎原Aコース)
11:31はしかけの滝
12:05蕎原Bコース出合
12:33〜12:35和泉葛城山山頂(856.7m 一等三角点)
13:00〜13:50葛城神社裏(山頂)で昼食他うろうろ
13:55蕎原Bコース出合
14:10玉冷泉
14:22本谷林道出合
14:30林道から別れ
14:35枇杷平
14:47蕎原・塔原分岐
15:00蕎原Bコース登山口
15:15蕎原山荘奥の広場



和泉葛城山のデータ
【所在地】 大阪府岸和田市
【標高】  858m(一等三角点 865.7m)
【備考】  大阪府と和歌山県の境をなす和泉山脈の中西部、紀泉高
      原の主峰です。古来からの修験との関わりが深く、中腹
      に犬鳴山、牛滝山の古刹がある他、頂上には雨乞いの神
      として信仰される葛城神社、竜王神社があります。又、
      頂上付近はブナの天然林が8haにわたって広がり、国の
      天然記念物に指定されています。林道が整備され車でも
      登れますが、最寄りは水間鉄道水間駅からバスで蕎原、
      南海岸和田駅から牛滝山がポピュラーです。
      ■近畿百名山 ■関西百名山
【参考】  エアリアマップ山と高原地図『紀泉高原』



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