雲上山歩で暑気払い〜武奈ヶ岳

平成13年 7月 21日(土)
天候: 晴れ時々曇り
同行: 単独
武奈ヶ岳山頂風景。標識の右に三等三角点


 夏は低山愛好者にとってはつらい季節。高温多湿と繁茂する草いきれ、思っただけでも
汗が噴き出しそう。せめて出発地点の標高は600mは欲しいのだが、テリトリにしてい
る大阪近郊には、そんな山は金剛山以外ほとんどない。何せ標高600mといえばもう頂
上なのだから。(笑)

 いきおい、若干の遠出が必要となるが、そうなると金が続かん。さりとて山は行きたし
で痛し痒し。(ホントにここのところ、山で蜂に刺されるわ、ダニで痒いわ、名実ともに
痛し痒し)

 さて、上記の条件を勘案して、何処へ出かけようかと考えた末に、得た結論は比良の武
奈ヶ岳。初見参の山域である。高い高速料金と経費を要するのが難点だが、その分交通は
至便。リフトとロープウェイを利用すれば、スタート地点は既に標高900m。それに少
し遅めに出掛けられるしね...。(^_-)

 8時、家を出る。最寄りのコンビニで食料を仕入れ、名神から湖西道路へ。京都東IC
で水泳客の車等で若干渋滞したもののほぼ順調。右に琵琶湖。左にややガスに煙っている
が緑の屏風の如く聳える比良山系。快適なドライブである。

 湖西道路の終点は志賀IC。その先にR161の立派なバイパス道が出来ていて、終点
のT字路を左折すれば武奈ヶ岳の起点、イン谷口への道である。左に比良川を見て遡行、
小さな橋を渡った所がイン谷口のバス停であった。車道は右に折れて尚も奥へ伸びている。
路肩が広くなっていて、この辺り一帯がリフト前の駐車場らしい。適当な辺りで車を止め
る。

 沢では爽やかな音を立てて透明な水が豊かに流れている。しかも花崗岩質の白い砂だか
ら、余計に明るく清澄な感じがする。岸辺に咲くヒメヒオウギズイセンの赤が綺麗だ。

 バスの回転場や茶店を左に見るとすぐにリフトの山麓駅。黒板に山上は気温21℃の表
示。おっ、寒い位じゃないかと目尻が下がる。リフトとロープウェイは往復2千円。少し
高い気もするが、山を見上げて納得。距離が長い。1km以上はあろうか。シャカ岳駅は
遙か上だ。よっこらしょとリフトに乗る。リフトは何時乗っても足元に何もないのが一寸
スリル。持ち物を落としたらと若干の緊張も強いられる。登るに従って、左斜め遙かにロ
ープウェイの山上駅が見え隠れする。振り返れば、近江舞子の小松沼から琵琶湖の景観が
広がる。雄大。
ロープウェイのシャカ岳駅(749m)から見る琵琶湖

 シャカ岳駅に着くとロープウェイのゴンドラが出発間近。満員の中へ飛び乗る。長さ1
248m、高低差215mのロープウエイはこれまたスリル満点。直下の谷沿いに登山道
(ダケ道)が延びているのが分かる。しかし、その最終部分はガレた急斜面の約40mの
直登。ロープが見えるがかなり厳しそう。折から、一人の登山者がその斜面を登り切った
尾根に立っているのが見えた。

 ロープウェイ山上駅に到着。標高は900m越えで六甲山とほぼ同じ。流石に吹き抜け
る風は涼しい。改札を抜けると、簡単な山道具の売店のある待合室。そこを出ると高原状
に波打つ緑が目に飛び込む。ケルン状の石積みの横に案内板がある。左へ行くと金糞峠。
最短コースは八雲が原を通るコースのようだ。とりあえず八雲ヶ原を目指すことにする。

 幅広の地道は風化した花崗岩で白く、雑木の間を緩やかに降っていく。木立の切れ目を
覗くと斜面にホンシャクナゲがある。と、ブーンとクマバチが耳を掠めた。又虫かぁ〜?。

 右手にいつの間にか細流が現れると間もなく八雲ヶ原に出る。ガクウツギだろうか白い
花が咲く木に囲まれた湿原の中に木道が設置してある。規模は小さいが尾瀬の雰囲気。枯
葉色した小さな池が現れ、水面にはヒツジグサが繁茂している。池にはり出した木の枝に
モリアオガエルの卵塊が一つ。水面に浮かんだイモリが人の気配に驚いて、慌てて水底に
潜った。
八雲ヶ原湿原の木道。周囲に点々とガクウツギ

 八雲ロッジの建物の廻りには色とりどりのテントの花が咲いている。釈迦岳方面を示す
道標を右に過ごして、スゲに似た草の繁茂するスキー場のゲレンデを登っていく。

 容赦無く照りつける日光の下はやはり猛烈に暑い。ゲレンデなので逃れるべき木陰もな
い。時折、日を遮る雲と吹き通る風に救われる。二つ目のゲレンデは斜度もきつくなって、
立ち止まる間隔が目に見えて短くなって行く。汗は拭う尻から流れ出る。遠くでドーンと
いう音は遠雷か、饗庭野の自衛隊の演習の音だろうか?

 這々の体でようやく二本目のゲレンデの最上部に到着。すると右前方の雑木林にポッカ
リと穴グラの様に開いた口があって、木々にテープが巻かれているのに気づく。やっと本
格的な山道だ。直射日光とさよなら出来ると喜んだが、引き換えに展望は皆無。が、木陰
はやはり涼しい、一息つく。 

 丁度、密集した雑木の間に人が通るだけの空間があいているという感じの登山道は、山
腹をへつる感じで徐々に高度を上げていく。ウグイスがすぐ間近で鳴いたのには驚いた。
赤テープを目印に、時折現れる大きな石を乗り越えながら進むと、徐々にクマザサが目立
つようになり、ブナと思しき木も増えてくる。そして一面のササ原を突き抜けると、明確
な登山道と古い標識が現れた。左は中峠へ続く道。今辿ってきた道はコヤマノ岳の東面を
掠める道で、ややマイナーな道のようであった。

中峠との合流点。小生は写真の奧からやってきました

 標識に従って右に折れる。この辺りは気持ちのいい道が続く。すぐにイブルキノコバか
らの道と合流し、コヤマノ岳と武奈ヶ岳の鞍部へ出た。

 鞍部を抜けると武奈ヶ岳への最後の急登。人間が歩いて堀り込んだ深くえぐれた半分坑
道のような道がうねりつつ続く。

 突然頭上が明るくなる。バッと地表に飛び出す感じで視界が広がった。おおっ?振り返
ると琵琶湖。蓬莱山方面へ山並みがうねっている。足どりは先程までとはうって変わって
軽くなる。張り切って登り切った所が武奈ヶ岳の南のピーク。そしてそこから50m程の
所が、武奈ヶ岳の三角点ピークであった。
武奈ヶ岳南峰から山頂。鈴なりの登山客が。

 流石に日本二百名山の人気の山。鈴なりの登山客。三度も記念撮影のシャッターを依頼
される。それに比較して三角点は哀れ。角が欠けて、歯槽膿漏の歯茎のように下部まで露
出してしまっていた。
 が、その展望には驚いた。草原状なので視界を遮る物がなく、聞きしに勝る素晴らしさ
だ。東は指呼のコヤマノ岳の向こうにロープウェイの建物が小さく見える。思えば遠くに
きたものだ。更に釈迦岳に関電の通信施設が建つカラ岳。そのバックは、残念ながら伊吹
・鈴鹿は霞の中だが、左右に広がる琵琶湖と湖上に浮かぶ沖の島。対岸の長命寺の山塊か
ら湖東平野。南には打見山に蓬莱山の草原。双眼鏡ではパラグライダーの姿が認められる。
西は安曇川の深い谷の底に坊村や朽木村の集落。京都の最高峰、皆子山はどれだろうか。
芦生も見えるはずだが重畳と波の様に山が続いて分からない。北は蛇谷が峰へ続く山並み。
リトル比良のガレ場。うーん。見飽きんなぁ。視界が良ければ遠く白山や御岳、乗鞍が望
見されると云うが、さもありなん。
山頂から南方向に見える蓬莱山
山頂より東方向の釈迦岳。右に白く見えて
いるのゲレンデと山上駅

 少々早めだが昼食。混雑を避け、南のピークと三角点ピークの真ん中辺りまで戻り、サ
サをかき分けると手頃な地面があったので、ザックを広げた。

 爽やかな涼風に吹かれて食後のコーヒーを飲んでいると、トンボがやたら多いことに気
づく。以前、大台ヶ原の赤トンボが涼しくなるに従って、徐々に下界へ降りていくと聞い
たことがあるが、ここのトンボも9月になれば近江舞子辺りを飛んでいるのだろうか。

 帰路はイブルキノコバへ廻ることにする。先程の合流点を直進。ブナ、ミズナラ、ウリ
ハダカエデ等が茂る明るい雑木林を進む。所々に芦生スギ。雪で押さえつけられた根元か
ら株立ちした幹が天を突く。
イブルキノコバへの明るく心地よい登山道

 いつしか右手に沢音が聞こえだす。それは小さな山襞の細流を集めて徐々に流れを太く
し、やがて丸木橋で越えねばならぬほどの水流となり、鴨川の源流にあたる広谷に合流す
る。登山道はある時はこの沢を利用し、ある時は横切る。トチの木が大きな葉を広げ、透
かされた日の光は青い。同じくヤマアジサイも青い可憐な花をつけている。BGMはヒグ
ラシのコーラス。それらを愛でながら、一歩一歩その良さを確かめながら歩く。
 
日の光を精一杯受けるトチノキ

 一休みしてナメ滝の下流で顔を洗う。冷たく気持ちいい。長く手を浸けていると痺れて
くる程だ。足元に、黄色いホトトギスの花を見つけた。初めてみる花だ。勿論早速、撮影
モード。(帰宅後確認するとタマガワホトトギスであった)

 イブルキノコバは幾本もの芦生スギが生える場所だが、表示がなければ見過ごしてしま
いそう。広谷から細川越へ抜ける道が分岐する。望武小屋があるはずだが分からなかった。

 ここから登山道は沢と分かれて山腹を行く感じで、小さなアップダウンを繰り返す。そ
して前方が開けたなと思ったら、往路のスキー場の一本目のゲレンデの中間部分に出た。
地形図にはイブルキノコバ経由の道は表示されておらず、往路で辿った道が表示されてい
るのだが、現在ではその地位が逆転している様である。道理で往路、誰もこっちへ上がっ
てこなかったのだ。こちらを通れば涼しかったものを。と思っても後の祭り。(^^;

 八雲ロッジへはそこから数分で到着。確か缶ビールの自動販売機があったはず。往路に
目敏く見つけておいたのだ。(^^)ゝ あった、あった。350円也だが、迷わずゲット。
喉越し爽快。一気に飲んでしまった。ハフー。プハーッ。

 八雲が原から山上駅までは意外と高度差がある。八雲が原がすり鉢状を呈しているのが
分かる。ビールの所為か意外に時間がかかってしまった。

 駅構内の売店のある待合室。次の発車まで時間があったので、商品をあれこれ物色して
いると、MontBellの、眼鏡を外した際に胸につり下げる事が出来る紐があったので購入す
る。

 ロープウェイ、リフトと今日の余韻に浸りながら降っていく。リフトの山麓駅の向かい
に水場。竹筒から流れる冷たくて旨い水。甘露。なかなか都会じゃ飲めないなぁ。

 駐車地。車のクーラーが効いてくる迄、比良川に降りて顔を洗う。これまた冷たくて最
高だ。渋滞を避けて早めに帰途につく。湖西道路を走っていると午前より視界が良くなっ
ているようだ。左手に鈴鹿方面の山並みがスッキリと見えていた。

 初めて足跡を残した比良山系。奥の深い山域である。武奈ヶ岳だけでも多くのバリエー
ション。またいつか訪れてみたい。そんな思いを起こさせる夏の一日でした。



【タイムチャート】
7:50自宅発
9:30〜9:35リフト山麓駅手前の駐車地
9:58シャカ岳駅
10:07ロープウエイ山上駅
10:20八雲ヶ原
10:51ゲレンデ最頂部
11:04中峠分岐
11:08イブルキノコバ分岐
11:20武奈ヶ岳南峰
11:23〜12:35武奈ヶ岳山頂(1214.4m 三等三角点)
12:45イブルキノコバ分岐
13:15イブルキノコバ分岐
13:25ゲレンデ中央部出合
13:30〜13:40八雲ヒュッテ
13:55ロープウエイ山上駅
14:10〜14:15シャカ岳駅
14:35リフト山麓駅
14:50リフト山麓駅手前の駐車地



武奈ヶ岳のデータ
【所在地】 滋賀県大津市・滋賀郡志賀町
【標高】  1214.4m(三等三角点)
【備考】  琵琶湖の西、南北25kmに及ぶ断層山脈、比良山脈の
      主峰です。比良の名はアイヌ語の『ピラ』(険しい)に
      由来するといわれ、又、武奈ヶ岳はブナの多い山から命
      名されたといわれます。頂上は360度の大展望で、白
      山、御岳が眺められる場合もあるそうです。登山道は東
      のイン谷口、西の坊村等が一般的ですが、リフト、ロー
      プウェイを利用すれば楽です。(^_-)
      JR湖西線比良駅からバス便があります。
      ■日本二百名山■近畿百名山■関西百名山
【参考】  エアリアマップ 山と高原地図『比良山系』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system